現在「3」
双子はその性格の全てを隠してニコニコ、従順に教師達に従っていた。
「来る日も来る日もテスト、テスト、テスト。」
「イヤになっちゃうなぁ・・・。」
こんな愚痴を漏らすのは母の前だけだ。
「クラスの皆とも遊びたいのに、先生が許してくれないんだ。僕たちにはするべきことがあるって。」
エヴァは2人の言うことを鵜呑みにするわけではないが、彼等の学習スケジュールには少々行き過ぎたものを感じていたため休み明けには、詰め込みすぎの教育に対してどういうことかを聞く予定だった。
「イヤなら、イヤって言えばいいのよ、母さんは貴方達に無理をして欲しくないの、自分達がまだ小学一年生だってこと、忘れてない?」
優しい母。
双子は自分たちを気遣う彼女を誰よりも愛していた。
大人達のいいなりにならなければ母が困るのではないかとかも考えていたようだった。
「「うん、母さんありがとう。」」
母に抱きしめられるのが好きだった。
母にお礼を言うと、エヴァは必ず、
「こちらこそ、生まれてきてくれてありがとう。」
と言って抱きしめてくれる。
母に愛されていることが双子は自慢だった。
「ね、母さん。買い物行くって言ってたでしょ?」
思い出したようにルークが言う。
「ええ、ロンドンは久しぶりだし、貴方達に何か服でも買えればって思ってるの。」
母の楽しそうな笑顔を見ていると嬉しいものだった。
「僕は、スウドクの本が欲しいな。」
アーサーがポツリと言った。
彼は現在数独に夢中である。
夢中と言ってもその趣味は長い。
彼等が5歳の時にエヴァが嵌ったものだったが、頭のいい双子は母のしているものなら何でもしたがり、広げている本にかじりついた。
どちらかと言えば文系のルークは、数日で興味を他のものに移したが、アーサーはその頃から数独が大好きになってしまったのだ。
「また?アーサーは数独ばっかりだ。僕はクロスワードの方が好きだな。」
ルークは言葉遊び的なクロスワードに嵌っている。
「ふふっ、取り合えず、本屋さんには行きましょうね。」
「「はーい」」
身支度をするために母が席を立つ。
「あ、そうそう、ハロッズの前でお友達と待ち合わせなの。」
双子が母を見た。
「友達?」
「ええ、こっちに居る時に何かと親切にしてくれた・・・母さんにとっては、親友ね。彼女には酷いことをしてしまったけど、私を許してくれたの。」
母親が人に酷いことをしてしまったと言うのを聞いて双子は興味をひかれた。
「どんなことをしてしまったの?」
「友達って誰?」
双子が珍しく母親のスカートを引っ張りながら聞いてきた。
「酷いことは・・・もう少し貴方達が大人になったら話ししてあげるわ。友達の名前はリサよ、リサ・ホーク・・・いえ、リサ・アイザックかしら。」
ふと見せる顔に悲しさが混じっていることに双子は気付いた。
そして、顔を見合わせる。
母の語る酷いこと。
その内容の真意は分からないが、その中に自分たちのことが含まれていることは何となく分かる双子達であった。
「リサ・・・。」
「そう、昔から美人で一目を惹いてたわ。社交的で母さんとは正反対。でも、私の悩みとか相談とかに真摯に耳を傾けてくれたの。」
自分達が調べ聞いた父の話の中に出てきたリサという女には、あまり良い印象を受けなかった。
母ではなく、リサを選んだ父。
双子はニッコリと母に微笑んだ。
「楽しみだな。」
「母さんの親友に会えるなんて。」
その微笑の意味するところをエヴァは一瞬考えた。
「なぁに?その微笑み。悪戯する時に出る感じに似てるけど?」
双子の企みに気付くものは少ない。
特に会話や表情で読み取るのは母であるエヴァだけだ。
「初対面のリサに悪戯しちゃだめよ?」
「「しないよ。酷いなぁ、母さんったら。」」
口をついて出た言葉が揃っていることにも目を細めるエヴァ。
(何を企んでるのやら。目を光らせとかなきゃ。)
一方双子達は・・・。
(母さんには、いつも見破られるな。)
(ちょっと、リサって女に聞きたかっただけなのに。)
母の動向に気を付けながらリサという女を見定めようと考えている双子であった。