現在「2」
エヴァの心の中はもう直ぐ沸点に達しようとする湯のようだった。
これ以上、彼と話をしていたら、リサとの結婚生活はどうだの、子供はいるのとか色々と探りを入れてしまいそうだった。
「君の子供はとても優秀だそうだな・・・。」
全てが癪に障る言い方だと感じていた。
「私の子供ですから、」
それはエヴァが胸を張って言えることだった。
「では、授業の準備がありますから、失礼します。」
「エヴァ!」
彼が呼ぶ声に思わず立ち止まった。
「・・・何でしょう。」
「いや、いいんだ。」
エヴァは部屋を出て後手に扉を閉めた。
途端に力が抜けそうになる。
「「母さん?」」
気が付くと双子が目の前に立っていた。
エヴァはハッとして双子を両腕に匿うと理事室を離れた。
「どうして、ここにいるの?こっちは貴方達の校舎と違うでしょ?」
双子達は迷子になっただけだと言ったが、実際は、父親が学園に来ていると知って顔だけでも見てやろうと思ったのだ。
まさか、母親がその部屋から出てくるとは思って居なかったが。
双子は密かに理事であるアスラン・アイザックのことを探っていた。
「ちょっとお聞きしていいですか?」
小さくて愛らしい天使のような双子に誰もが気持ちよく答えてくれた。
「まぁ、何て可愛らしい双子ちゃんかしら、」
「噂には聞いていたけど、エヴァンローズ先生のお子さんでしょう?」
2人は文字通り天使の笑顔で挨拶をする。
ここは、職員室。
母親の姿がないことを幸いに話を聞きだす。
「で、何を聞きたいのかしら?」
「この学園の理事さんって、どんな方なんですか?」
先生方はこの学園の理事をしている方々のことを語っていく。
「若いってきいたけど、いい人ですか?」
「そうね、若いけれど、アイザック卿は大した人だと思うわ。」
アイザック。
やっと出てきた名前に双子は息を飲む。
“卿”ということは、貴族か。
双子は互いに目線を合わし、次々に話を聞きだす。
アスランが若い年の割りに立派に仕事をこなしていること。
弁護士としても成功し、父親の後を立派に継いでいること。
社交界の憧れの人であるが、誰一人として彼の心を射止めていないこと。
リサという彼の秘書が彼に近付こうとする女を排除していることなどいつしか双子のことなど忘れて話し込んでいた。
「ルークどう思う?」
「話を聞いた限りじゃ人徳者って感じだね。」
「女のことになるとだらしないのかな?」
「んー何にしろ、母さんとボク達の敵だね。」
「敵だね。」
幼い子供の言葉とは思えない会話である。
ふと職員室を出る時に聞こえた言葉。
「そういえば、今日はアイザック卿が来てるのよね。」
2人は急いで理事室に向かった。
経った7歳であるが、2人は校内の地図を頭に入れていたため、簡単にたどり着くことが出来た。
こっそり、顔を見るだけと思っていたら、エヴァが出てきたのだ。
双子を見つけるなり逃げるように理事室を後にするエヴァに双子達の心が痛んだ。
「誰に会ってたの?」
知っていて尋ねてみた。
「理事さんよ。今日は貴方達はもう終わりでしょ?図書室で待ってなさい。一緒に帰りましょう。」
2人を両サイドに連れて歩くエヴァ。
かすかな震え。
それを子供達は感じ取っていた。
祖父母も優しく、厳しく育ててくれたがやはり母の愛情が双子にとっては一番嬉しいものだった。
((父さんなんて、呼んでやるもんか!))
双子の誓いはアスランには手厳しいものだった。