「リサ」4
どうやったら、アスランとエヴァを引き離すことが出来るのだろう?
グレックという男にエヴァの誘惑を頼んだ。
アイツは、私に夢中だから言いなりだ。
できるだけ親しそうに、エヴァに優しく声をかけてその気にさせるように指示したけど余り上手くいってない。
どうしてエヴァをそんなに憎んでしまうのか。
それがハッキリしたのは、エヴァの部屋を訪ねた時の事だった。
「誰からの手紙なの?」
部屋に入った時に伏せられた手紙。
エヴァは少し照れた顔をした。
「りょ、両親からなの。田舎の研究所で働く父さんと地元で教師をしてる母さんから・・・。いつも心配かけてるから・・・。」
両親の中が良いことをひけらかすエヴァ。
彼女の母が作り、送ってきたニット類や、田舎の写真が多く入っていた。
「仲がいいのね。」
「うん、私が唯一自慢できるものかな、リサもいつか来て?自然が一杯あっていいところだよ。」
彼女の笑顔に笑顔で返事したけど、行く気なんかなかった。
うちは、夫婦仲が悪い。
先日、お父様の浮気が分かった。
お父様は、何もかも捨てて、浮気相手と再婚したいと言ってきた。
もちろん、そんなことホーク家の名を汚す行為だから、お母様が許すはずもなく、今、家はギスギスしている。
それなのに、エヴァは・・・両親に愛されて、伯爵夫人にも気に入られて・・・アスランにも。
この子と私なら、私の方が綺麗で優秀なのに・・・。
自分だけが幸せで誰からも好かれてると思っているエヴァが憎かった。
だったら、貴方が一番好きなアスランを私が奪ってあげる。
アスランの心を手に入れなくても貴方を傷つけて、宥めて裏切ってあげる。
いつしかそんな思いに取り憑かれていた。
ちょっとした予感があった。
いよいよ彼の留学まで後少しという時、その予感の原因を探ろうとアスラン達のマンションを訪ねた。
そのマンションから出てきたのはエヴァ。
すれ違い様に感じた違和感。
逃げるように去っていこうとする彼女を捕まえて顔を覗き込んだ。
血の気が引いた。
アスランは、またエヴァを抱いてしまった。
きっと通じないと思ったけど、ありったけの罵詈雑言を彼女に浴びせた。
エヴァは目を真っ赤にして泣きながら謝ってきた。
何?アスランは貴方に愛を囁かなかったの?
心の中で高笑いをする自分の声を聴いた。
懸命に謝ってくるエヴァ。
そう、そうよね、貴方は私のことを初めて出来た親友だと思ってるものね。
その日以降、エヴァはアスランを徹底的に避けていた。
留学を控えたアスランは忙しくて、でもエヴァに連絡が取れないことに焦っていた。
「アスラン、エヴァには私が伝えるわ。だって、もう日がないもの。もし会いたくないって言われても、私が貴方の気持ちをちゃんと伝えるわ。」
トーマスがどういうつもりだと言ってきたけど、言葉の通りだと告げた。
「2人が誤解しあっているのは本当ね。でも、そこまで世話を焼くつもりはないわ。どんなに忙しくても会おうと思えば会えるのに、それをしないアスランに問題があるのよ。私のせいじゃないわ。」
トーマスは何も言えなくなったみたい。
だって、そうでしょ?
お互いを信じない2人が悪いの。
こうなったら、何が何でもアスランは私がいただくわ。
エヴァには、家族がいる。
だったら、アスランの1人くらい貰ってもいいわよね、彼ほど私に相応しい人はいないんだから。
旅立ちの日、アスランは夫人の力も借りてエヴァを探したみたいだけど、結局彼女は見つからなかった。
「ごめんなさい、エヴァったらどうしたのかしら。」
随分探して、説得したとアピールする。
「いや、いいんだ。」
アスランは旅立っていった。
アメリカから何回も寮のエヴァ宛に手紙があったみたいだけど、すべてもみ消した。
寮母は金さえ払えば、どんな生徒の個人情報だって売ってくれる女だった知っていたから。
エヴァの代わりに、一度だけさよならの手紙をアスランに書いた。
いい気味。
エヴァが飛び級して大学を卒業し、教員免許を得たことを知った。
「帰るの?」
「ええ、リサにはお世話になったわ。ありがとう。」
「いいのよ、私達は友達でしょ?」
ハグして別れた。
この服は焼いて捨ててしまおう。
私の人生からエヴァンローズ・アグウッドは消えたんだ。