「リサ」3
アスランとそのお仲間が勉強会を開く情報を得た。
私は、その会に参加して、分からないことがあるとエヴァの部屋に行った。
伯爵家の中で唯一質素な部屋。
あの部屋を見たときホッとしたものだった。
だって、あの夫人なら、息子の好きな女の子の部屋を可愛く、綺麗に装飾するはずだもの。
「エヴァ?」
「リサ・・・来てたの。」
この部屋に来るようになって、私は、アスランのことが好きであることを彼女に語った。
少なからず彼も私を思っていることも伝えた。
傷付いたような顔を見るのが愉快だった。
身の程を知る必要があるの。
「うん、ごめんなさい、今いい?」
「ええ、もちろん。・・・どうしたの?」
「アスランがね・・・酷いこと言うの。」
「酷いこと?」
彼女が真剣な目になる。
「私が違う男の子と一緒に居るだけで浮気者だなって言うのよ。彼とは何もないの。ただ偶然歩いていただけなのに・・・。」
うんうんと聞いているエヴァ。
ほんと、馬鹿な女。
「やっぱり、派手だから誤解されるのかな・・・もっと地味な格好の方がいい?これだけ一緒に居るのにまだ告白もされないの。どうしたらいい?」
エヴァはまた傷付いたような顔を見せた。
「リ、リサは、そういう華やかな方が似合うと思う。それに、それってアスランの嫉妬だと思う。リサに近付く男は皆許せないんだよ。」
苦しそうに言う彼女に満面の笑顔を見せて抱きつく。
「エヴァ、大好き!貴方だけよ、そう言ってくれるの。」
「・・・私も、リサが好き。」
ありがとう、ってそっと囁くと嬉しそうな顔をするエヴァ。
ホント馬鹿な女。
それから数日後、エヴァが言った。
「アスランを怒っておいたよ。リサを浮気者って言ったでしょって、聞いたら“言った”って言うから。リサは、一途な子なんだって。」
あら、確かめたの。
そんな勇気ないと思ってたけど。
「ありがとう、エヴァ。これでアスランも告白してくれるかしら。」
「う、うん、そう思うよ。」
その日の帰り、アスランに呼び止められた。
「エヴァに何か言ったのか?」
「え?何も言ってないわよ。ただ、私は男友達が多くて顔が広いだけなのに、アスランに浮気者って言われたことを言っただけ。」
嘘の中に本当を混ぜる。
「嘘じゃないだろ、リサはもっと自分を大切にするべきだ。」
「じゃあ、私を大切にしてよ。仲間としてでいいから。貴方の輝かしい将来の手助けがしたいの。トーマスやニコラス、ジョンのように。」
「そういうことなら、・・・喜んで。」
そう言ったアスランに抱きつく。
高校も最後に近付いた今、彼には、私のプラムパートナーになってもらう。
「だ、抱き合ってたね。」
いつもの勉強会、エヴァが言った。
「やだ、見てたの?恥ずかしいわ。」
やっとアスランに告白されたんだとエヴァは思っているようだった。
「で。エヴァはプロムどうするの?誰と出るの?」
ハッと顔を上げるエヴァ。
彼女みたいな子を誘ういるわけないと分かってて尋ねる。
もちろん、エヴァはアスランの相手は私だと思っているだろう。
「卒業式が終わったら一旦、田舎に帰って父さん達に報告しなきゃって思ってるの。」
「出席しないの?」
そりゃそうか、私とアスランが注目されるパーティに出たいなんてさすがに思わないわよね。
「たぶん、」
私は彼女の部屋を出た。
廊下で伯爵夫人と使用人達が話をしている声が聞こえた。
僅かに隙間が開いているドアから覗き込むと、夫人の前にアイボリーのドレスが飾ってあった。
「どう?エヴァに似合うと思ってデザインしたのよ。コレを来たエヴァをアスランが誘わなかったら、本当馬鹿よね。」
アスランが私じゃなくて、あの子を誘う?
「お互いに何を遠慮してるのか知らないけど、息子の恋愛にはできるだけ口を出さないって、主人に誓ってしまったから、もうヤキモキするわ!」
それに、夫人は、エヴァを気に入ってるって言うの?
あんな冴えない子を?貴族でもないのに?
そんな馬鹿な。
アイザック家の夫人といえば生粋のイギリス貴族でしょ?どうしてエヴァをいいだなんて思えるの?
私はフラフラしながら、アスラン達の待つ部屋へ戻った。
「どうした?顔色が悪いよ?」
ニコラスの言葉。
「そう?」
アスランが立ち上がる。
「リサ、今日は帰れ。できるなら、もう来ないでくれ。君はこの勉強会に居てもエヴァのところにばかり行って、何もしてないんだから。」
「ひ、酷いわ、た、確かに勉強はしてないけど、エヴァと私は仲がいいのよ?引き裂く気?」
涙なんて幾らでも流せた。
プロムの日は、本当に忌々しかった。
注目を浴びるエヴァが。
彼の隣に居たのは私のはずだったのに。
やけくそで誘ってきたトビーと会場で会う。
不機嫌にならないはずはなかった。
エヴァに隠していた毒が少し漏れてしまった。
あのアスランの目。
大切な宝物を見るかのような目。
許せない。
今夜、彼はエヴァを抱くのかしら・・・。
許さない。
女の顔になったエヴァが憎くてたまらなかった。
アスランは相変わらずのポーカーフェイスだけど、大学に入るなり留学の計画を仲間達と立てているようでエヴァとはすれ違いの生活らしい。
訪ねたエヴァの部屋で彼女は私を見て動揺していた。
そりゃそうよね、友達の男を寝取った形になったんですもの。
彼女の戸惑い、贖罪が手に取るように分かった。
だから、言ってやったの。
「私、アスランを許そうと思って。プロムのことよ。アスラン怒ってたから。私が彼を無視してトビーを誘ったから。次の日、彼ったら謝りに家まで来てくれたの。愛してるのは私だけだって言ってくれたわ。ごめんね、エヴァ・・・バージン捧げた相手が彼で。でも分かるでしょ?貴方と彼じゃつりあわないって。貴方は田舎で子供相手に教鞭とってる方がお似合いよ?」
私の嫌味を怒りと受けとったらしいエヴァは泣きながら謝ってくれた。
「アスランには、出来る限り近寄らない。ごめん、ごめん・・・リサ。」
「友達だと思っていたのよ、エヴァ・・・貴方もアスランのことが好きだったのね。」
彼女の顔がハッとなる。
「違うっ、違うわっ!私は、アスランなんか好きじゃないっ!ごめんなさい。」
抱きついてくるエヴァの頭を撫でる。
「いいの・・・でも、二度とこんなことしないで。したら、絶好よリサ。私から親友を奪わないで。」
コクコクと頷く彼女。
心の中で笑いが止まらなかった。
大学で、アスランとエヴァは面白いくらいにすれ違っていた。
間に私が入ったこともあるから、わざと会わせなかったというのもあるけど。
エヴァは私とアスランが婚約してると思いこんでるし、アスランは、どうしのか、エヴァに声をかけるタイミングを失っているようだったわ。
伯爵夫人には相変わらず呼び出されているみたいだけど、何回かに一回は私のショッピングの荷物持ちを優先させてくれた。
もう1つ、決定打があれば、完全に別れることになると思うんだけど。
大した顔も、体も家柄もないくせに高望みをするエヴァ。
『Cry For The Moon』
その意味を分からせてやる。
つづく