「リサ」2
アスラン・アイザック。
銀の髪に青い目。
妖精の様に整った顔。
金髪碧眼の私にとってもお似合いだと思う。
しかも伯爵家の長男・・・。
トーマスと話が合うようだからきっと頭もいいのだろう。
私は一緒に居るトーマスに声をかけた。
「ハーイ、トーマス。」
私が声をかけてあげたんだから、返事なさいよ。
「・・・リサ・・・。何だよ・・・俺に声をかけて来るなんて。」
貴方にじゃないの。
「私の知らない人と話してるから、誰なのかなって、紹介してもらおうと思ったのよ。」
彼の視線に入る椅子に座る。
「こんにちは、私はリサ。リサ・ホークよ。」
彼はニコリともしないで差し出された手を握手してきた。
大きくて頼りがいのある手だと思った。
「・・・離してくれないか?本が読めない。」
「あら、ごめんなさい、貴方の方が離したくないんじゃないかと思ったの。」
いつもの笑顔が彼には通じなかった。
彼は少し首をかしげる。
「君はトーマスの幼馴染?」
「そうよ、私も法律に興味があるの。将来は、貴方のところの事務所で働きたいわ。」
彼の目が大きく開く。
「へえ、おしゃれにしか興味がないのかと思ったよ。」
「あら、おしゃれするために勉強してお金を稼ぐのよ。」
彼は少し笑いながら視線を本に戻した。
これは、脈アリだわ。
彼女がいるって聞いたけど、それらしい女の影はないみたいだし。
トーマスがいきなり私の腕を取って席を立たせる。
「ちょっと、来い。」
アスランに挨拶をしてその場を離れる。
何なの?
「どういうつもりだ?」
「どうもこうもないわ、法律に興味があるの。」
「法律?嘘吐くな。アスランが狙いか?」
私はトーマスが掴んでいた腕を振り払った。
「何処が悪いの?彼こそ私に相応しいブランドだわ。」
「アスランは、ブランドじゃない。人間だ。」
「その陳腐な科白、片腹痛いわ。言っておくけど、邪魔しないで頂戴。邪魔したら、貴方の今の彼女にあることないこと言って別れさすわよ。」
トーマスが、自分に合った身の丈の彼女を得たことは知っている。
とても大事にしているとのことだった。
トーマスは彼女のことを出されると強く言えなくなる。
あんな女の何処がいいのか。
どうせなら、貴族の称号を持った彼女にすれば将来有意義なのに。
その日から私はアスランに猛烈なアタックを開始した。
アスランの彼女だと噂されるエヴァンローズ・アドウッド。
学者の父親と母親はアスランの母の実家で家庭教師をしていた一家の娘だと言う。
貴族でもなんでもない女。
しかも、笑ってしまうくらいダサい。
髪の毛はくすんだ金色。
その瞳も茶色。
顔にはそばかすがあるんじゃないかしら。
図書室の一角で本を読んでいた彼女に声をかけた。
「ハイ、」
顔を上げた彼女を見て確信した。
アスランは私を選ぶと。
「・・・なんでしょう。」
気付いたのね、私と貴方が違う人種の人間だって。
「貴方がエヴァンローズ・アドウッド?」
見たまんま、ガリ勉。
アスランより、トーマスより頭がいい才女らしい。
「そうですけど・・・。」
私はすっと手を差し出す。
「私はリサ・ホーク。貴方にお願いがあって。」
「・・・あ、あの?」
「貴方のこと、アスランが褒めていたから、とっても頭のいい幼馴染なんだって。」
彼女が少し動揺したことは見逃さない。
あれだけ素敵なアスランに恋をしない女なんて居ないと思うわ。
「図書室のことなら、司書に聞くより貴方の方が詳しいのでしょう?だから、この本がどこら辺にあるのか知りたくて。」
一枚のメモ、それはアスランに教えてもらった本の名前。
もちろん、筆跡は彼のモノ。
ふふっ、気付いたのね。
「今、司書さんは席を外されてて・・・。」
「ええ、アスランに聞いたわ。で、貴方なら知ってるはずだって言うから。私、エヴァ、貴方とお友達になりたいの。」
彼女の汚い瞳が開かれる。
「えっ?」
知っているのよ。
貴方が伯爵家に居候していること。
そのことが原因で中学時代は友達が居なかったこと。
私の側に貴方を置いて、違いというものを教えてあげる。
「私、見た目が派手でしょう?よく誤解されるの。だから、アスランがエヴァなら友達になってくれるよって教えてくれたから。駄目かしら?」
彼女の三つ編みが横に揺れる。
「わ、私でいいの?」
「エヴァだから、いいのよ。」
嬉しそうな笑顔を見せた彼女。
今は笑っていればいいわ。
アスランは私のものよ。




