第7話 八歳から九歳のデルク
+・+・+・+・+・+
第7話 八歳から九歳のデルク
+・+・+・+・+・+
九歳になった。八歳の間はとにかく勉強ばかりしていた。その間に,
父は定年になった。このグライデン皇国の役所は、六十歳で定年らしい。
もっとも父はそれなりに出世していたので、相談役として五年間は非常勤の雇用延長になっている。
父は錬金省の役人だった。錬金省はその下に金属錬成局と薬事製錬局があり、父は薬事製錬局の局次長だった。
金属錬成局と薬事製錬局は共に局長がトップだけど、これは子爵以上の貴族が就く役職なので、父は男爵が就ける最高位の局次長にまで昇ったわけだ。
あんな冴えない顔なのに、ちゃんと出世しているんだねと、感心してしまった。男爵家の中では名門ということもあると思うけど、それだけで出世できるほど貴族の世界は甘いものではないと思うから、何か悪いことをしてないか心配だ。
また、父は薬事製錬局を定年になったのを機に、ナグラー家の家督を長兄のパテリアスに譲った。
パテリアス兄上は、薬事製錬局で局次長の二つ下の管理官をしている。四〇前で管理官なのだから、兄も結構出世しているようだ。
そんなわけで、僕の身分は男爵家の五男ではなく、男爵弟になっている。
―――――――――
デルク・ナグラー 男
身分 ナグラー男爵弟
情報 転生者
統率 二五
武力 四五
魔力 三〇
知略 三〇
政務 三〇
生産 二五
魅力 二〇
属性 水(高)
恩恵 ステータス確認・健康体・ガチャ
技能 無限アイテムボックス
―――――――――
勉強をしたおかげか、知略と政務が結構伸びた。さらに武力も順調に伸びている。
武力が四五もあると、そこら辺の破落戸程度なら勝てるくらいの能力値だけど、武術の訓練はしてないし、実戦経験もないことから勝てないと思う。あくまでも数値上のものだね。
あと、九歳になったら、筋トレクエストの内容がまた変わった。一セットの内容は変わらないけど、三セットから四セットに増えたんだ。どんどん増えていくんですが!?
子供のうちからそんなに筋肉をつけたらいけないと思います! 九歳にしてシックスパックですよ?
あと、得られるガチャポイントは一で変わりがない。神様のケチ。
フィーデリア嬢との親交は相変わらずで、二人で会う時は会話がほとんどない。たまにスピカ姉様がいると、フィーデリア嬢もよく喋るんだよ、姉様と。
どうも僕とフィーデリア嬢は、婚約を前提に親交しているらしい。僕のことなのに、「らしい」というのは、そんな噂を家内で聞いたからだ。あくまでも噂なので、父や母、または当主のパテリアス兄様から言われたわけではない。
そして……。
「デルク、貴方はゲルミナス子爵家に婿入りするのよ。だから、フィーデリアさんとの仲をもっと縮めないとね」
ある日、いきなり母から衝撃的な話を聞かされた。
ゲルミナス子爵は宮廷魔法使いなんだけど、魔物との戦いで傷ついた時に父が貴重な薬品を使ったらしい。それ以来、二人は親交を持ち、たまたま同じ年の僕とフィーデリア嬢が生まれたことで、それじゃあ結婚させようかという話になったらしいんだ。
こういう話は貴族ではよくあることで、僕はゲルミナス子爵家に婿入りすることになっている。婿入りといっても、僕がゲルミナス子爵家を継ぐわけではない。皇国では女性当主の貴族家も多いので、フィーデリア嬢が当主で僕は配偶者というものになる。簡単に言えば、ヒモだね。
元々は、僕のところにフィーデリア嬢が嫁入りしてくるという話だったけど、五歳の属性確認時にフィーデリア嬢の属性が素晴らしいものだと分かったんだ。そこで、フィーデリア嬢にゲルミナス子爵家を継がせ、僕が婿入りする話に変わったらしい。
あの時会ったのも偶然じゃなく、親同士が偶然を装って僕たちを会わせるようにしたそうだ。何はともあれ、男爵家の五男の僕からしたら、逆玉といえる話である。
まだ婚約はしてないのは、親たちが僕とフィーデリア嬢の関係がしっくりいっていないと考えてのことだ。親たちは結婚してほしいけど、僕たちの距離がまったく縮まっていないことが、気になっているらしい。
父からはフィーデリア嬢の機嫌をとれと言われるんだけど、そういうことができない朴念仁なんだから仕方がないよね。
「お前が子爵家当主の配偶者になれるかどうかの瀬戸際なんだぞ! しっかりせんか!」
父は必死だけど、僕も必死だ。僕が何に必死かというと、転生者と結婚なんかしたら、僕の平穏無事な人生はないよね! だから、必死に回避したいわけ! その点でいうと、フィーデリア嬢との仲が縮まってないのはいいことなんだと思う。
ただ、あれだけの美少女との結婚が流れてもいいのか、という心の葛藤がある。僕のような奥手は、親が決めてくれてくれないと女性とまともに交際もできないと思うから……。自分で言っていて、情けないと思うよ。でも、女の子の前に出ると、何を言っていいか分からなくなるんだ。
「結婚すべきか、しないべきか、それが問題だ……」
僕はそんなことを考えていたんだけど、フィーデリア嬢には彼女なりの考えがあるんだよね。
フィーデリアは机に肘をつき、頬杖をしながら窓の外を見つめる。
「はぁ~。今日も上手くお喋りができなかったわ……」
その視線の先には、古びた塔があるのだが、彼女が見ているのは記憶の中のデルクであった。
実をいうと、フィーデリアも異性に対して口下手なのだ。同性とは普通にお喋りできるのだが、異性が相手だと途端に口が重くなる。特に自分が好意を寄せる異性なら、猶更である。
「今日もデルク君は、可愛かったな~」
フィーデリアはデルクが知っているように、異世界からの転生者であった。前世でアラサーだったフィーデリアは、ショタコンというほどではないが、そういう系の小説や漫画を購読していた。
推し活の対象にも、ショタが含まれていたのはちょっとした黒歴史である。
だが、今はフィーデリア自身が子供なので、恋愛対象がショタでも問題はない。しかし、異性に対するオクテは前世も今世も変わりなく、どうしたらデルクと仲よくできるか、思い悩んでいたのだ。
「筋トレが日課らしいけど、ゴリゴリじゃないのがいいのよねぇ~」
デルクの上半身裸の姿を妄想すると、クネクネしてしまう。
「ああ、あの柔らかそうな唇に吸いつきたいわ~」
涎を垂らして悶えるフィーデリアの姿は、扉の陰から顔を半分出して覗いている彼女の専属侍女に、しっかり見られているだけでなく、その声もがっつり聴かれていたのであった。
もちろん、専属侍女からゲルミナス子爵へとそのことが報告され、フィーデリアがデルクを好いていると判断されることになる。そのことから、フィーデリアとデルクの婚約話は一気に加速することになるのだった。




