第27話 正妻と制裁
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第27話 正妻と制裁
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院、皇族、重臣たちが、平伏している。
玉座にはフィーデリアが腰を下ろし、真っ黒な顔の皇帝を足蹴にしていた。
ここに集められた皇族は不敬だとか騒いだが、三人ほど腕を斬り落とされたら騒ぐ者はいなくなった。
「で、あんたたちはどこまで知っているの?」
ガクガクブルブル。
院をはじめ、皆が震えている。皇帝以外は。いや、皇帝も震えているが、これは呪いの痛みに喘いでいるのだ。
「早く答えてくれないかしら?」
「は、はい! 我ら重臣は……皇帝陛下が暗部を使って、で、デルク殿を拉致する命を下した場におりました」
重臣の一人が戦々恐々としながら答えた。
「誰も止めなかったわけね?」
「と、止めましたが……皇帝陛下の命令では……なんとも……」
「こいつが全部悪いと?」
足元に転がるアストリックを足蹴にするフィーデリア。
「「「………」」」
さすがに皇帝が悪いとは言えない重臣たち。
「発言してもよろしいですかな」
「前皇帝ね、何?」
「此度の件は、全て余の不徳の致すところ。この命を差し出しますゆえ、他の者には寛大な処置を」
「うるさい」
「っ!?」
殺気の込められた声は、その場にいる全員の心臓を鷲掴みにした。もっと殺気を込められたら、それこそ息もできずに死んでしまうが、フィーデリアもそこは分かっていた。
皇族の中には真っ青な顔をし、荒い息で今にも意識を手放しそうな者までいる。いや、すでに意識を失って泡を吹いている者も出ていた。
「デルクをここに連れてきなさい。貴方たちの処分は、それから考えるわ」
「しょ、承知。おい、早くデルク殿をお連れするのだ!」
「は、はい!」
重臣の一人が足早に立ち去っていく。
それから数時間。デルクはまだやってこない。
「どうなっているのかしら?」
「そ、それは……」
「夜明けまでにデルクがここにこなければ、皇族を一人処分するとしましょう」
「そ、それは!?」
「私は何もおかしなことは言ってないわよね? こいつが犯した罪で、家族が連座して処分されるだけだもの。この国では当たり前のことよね?」
「うっ……」
罪を犯した者の家族が連座で処罰されるのは、当たり前のことなのだ。それを当然のようにやってきた王侯貴族なのだから、知らないわけがない。
院は顔を真っ青にし、早くデルクが現れることを願った。
そこに重臣が現れ、院に耳打ちする。
「なっ!?」
「何かしら? 私にも報告してくれるかしら」
「……で、デルク殿を拉致した者らは、命令の撤回を聞き、ら、拉致したデルク殿を放置して撤収。そ、その後、デルク殿をお連れするようにと命令を受け、放置した場所へ……しかし、デルク殿はその場にいなかったようで……」
「そう。貴方たちは拉致したデルクを放置したわけね」
「そ、そのようなつもりはっ!?」
「まあいいわ。夜明けになってもデルクがここに現れなければ、皇族の誰かが処分されるだけだもの」
フィーデリアは心配だったが、デルクなら自力でなんとかするとも思っていた。フィーデリア曰く、チートなデルクなのだから、いくらでも逃げることはできるはず、と。
「ボーっとしてないで、デルクを捜したほうがいいわよ」
もしかしたら今頃ナグラー家に戻っているかもしれないけどね、と心の中で思うフィーデリアだった。
そんなこととは思ってもいない院は、重臣たちに命令を下していく。そして次期皇帝であるトリアリックもデルク捜索の陣頭指揮を執るのであった。
結局デルクは発見できなかった。当のデルクは、誰が味方か分からないことから、人が近づいてくると身を隠していたからである。
デルクが本気で身を隠そうと思ったら、もしかしたらフィーデリアでも発見できないかもしれない。そういった便利なアイテムもあるし、魔法陣を使いこなしつつあるデルクの隠密能力は極めて高いものだったのだ。
「残念ね。処分するのは誰がいいかしら?」
「それであれば、余を!」
「貴方は駄目よ。こうなった大元は貴方なのだから、貴方のせいで皇族が処分されるのを見ていてもらわないといけないわ」
「くっ……」
「それならわたくしを処分しなさい」
自ら前に出たのは上皇后だった。現皇帝アストリックの生母でもある。
「おばさんは駄目ね」
「なぜですか!?」
「そっちの若い貴方、貴方にするわ」
上皇后の問を無視し、その横にいる蜂蜜色の髪の女性を指名するフィーデリア。
「わ、わたくしは……」
「前に出て」
「い、嫌、許して……」
「何も命までは取らないわ」
「………」
「早く前に出なさい! さもないと、他にも処分するわよ!」
「ひぃっ」
振るえる足で一歩前に出た女性は、アストリックの妻、つまり皇后である。まだ二〇歳になったばかりで、若く美しい女性だ。
そんな皇后に、フィーデリアは手を向ける。
「アンチアピアランス」
黒い靄が皇后を包み込む。
「きゃぁぁぁ」
「な、何を!?」
上皇后が皇后に手を伸ばすも、それは黒い靄に弾かれた。
一〇秒ほどで靄は霧散したが、その中から現れた皇后はまるで八〇歳の老婆の姿になっていた。肌は潤いを失い深い皺が刻まれ、艶やかな蜂蜜色の髪は艶も腰もない白髪になりかなり薄くなった。
「寿命は変らないわ。ただ、容姿を変えただけよ」
「あぁぁぁぁ……」
皇后は皺くちゃな自分の手を見つめ、茫然自失となった。
「こ、こんな酷いことを、よくもできますね!」
「それはデルクを拉致した側の言う言葉ではないわね。貴方たちは自分がただの人間だと自覚しなさい。ただ、皇族に生まれただけの凡夫なのよ。それだけの存在なのに、よくもデルクに手を出したわね!」
フィーデリアの怒りが魔力の本流となって吹き荒れた。
上皇后の非難が押さえ込んでいたフィーデリアの怒りを解放してしまったのだ。
皇族は吹き飛び、せっかく再建した城がまた崩壊してしまうのだった。




