第26話 一一歳の拉致
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第26話 一一歳の拉致
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なんか揺れている。
首の後ろが痛い。どうやら、殴られて意識を刈られたようだ。
目は……暗い。目隠しと猿轡をされており、後ろ手で縛られ、足も縛られている。
どうやら僕は誰かに攫われてしまったようだ。拉致とか誘拐というものだろう。
参ったな……。
この揺れはどうやら船のようだ。水の音が聞こえるし、魔動車ならタイヤの音が結構するはずだから。
船かー。どこへ向かっているのかな? 皇都には水路が張り巡らされているし、その周辺にはいくつもの川があって、船でどこへでもいけるのが特徴だ。海にも出られるし、逆に内陸部へもいける。どこにいくにしろ、あまり遠いところは勘弁してほしいな。帰るのが大変だから、近場でお願いします。
しかし、男爵家の五男なんて誘拐してもお金にならないよ。あ、今は子爵家の部屋住みか。いや待てよ……フィーデリアのゲルミナス家ならお金を払うかも。
そう考えると、僕って意外とセレブ?
でも、無差別に拉致して、奴隷にされて売り払うっていう線もなきにしもあらずか。奴隷は合法だけど、誘拐して奴隷にするのは違法で重罪だ。
貴族の子供を攫うなんてリスクのあることをするかな? かなりヤバい橋を渡ることになるはずだから、割に合わない気がするんだよなー。
ま、この後分かるかもしれないし、その時に考えよう。
船が岸に乗り上げたような感覚と音がした。誰かが僕を肩に担ぎ上げたようだが、乱暴だな。もう少し丁寧に扱ってよ。
「おい、急げ!」
「だったらお前が担げよ」
「二人とも黙れ!」
男の声が三つ。二人は同格で、一人は格上だと思う。
どこかの建物だと思うが、埃が鼻につく淀んだ空気が溜まった部屋に放り込まれた。だから、乱暴だって。
「おい、こいつが逃げないように見張っておけ」
「へーい」
「ちっ」
痛っ!? 今、蹴っただろ!? 暴力反対! 僕に愛の手を!
「あー、かったりーな。こんな餓鬼、さっさと殺っちまえばいいのによ」
殺す!? え、誘拐して奴隷にするんじゃないの?
いったい僕にどんな恨みがあるんだよ!? 自慢じゃないけど、僕は人畜無害な子ウサギちゃんですよ! 殺さないで!
あれから何時間経過したかな?
僕のそばには常に一人は見張りがいる状態で、逃げ出す機会を窺っているところです。
手足を縛られていて逃げ出せるのかって? いや、逃げるだけならそこまで難しいことはないと思うんですよ。マジで。
問題は僕を拉致したヤツの目的なんだよね。僕を殺すために拉致したのであれば、すぐに殺していると思うんだよ。それをしないのは、何か目的があるんじゃないかと思うんだ。
その目的を確かめずに逃げるのは、また同じことの繰り返しになるかもしれないでしょ? いつまた拉致られるか分からないなんて、精神衛生上よろしくないと思うわけです。だから、主犯格の人や目的を知りたいわけ。
「おい、まだ上から何も言ってこねぇのかよ?」
「黙っていろよ」
「ちっ」
一人はせっかちな性格で、一人は寡黙だ。僕の見張りはこの二人が同時か交代で行っている。
あと一人、この二人の上司がいるけど、その人はほとんどいない。
その上司と思われる人物の足音が聞こえてきた。横たわって地面に耳を当てていると、よく聞こえるね。
「おい、撤収するぞ」
「は? こいつはどうするですか?」
「放置しろ」
「殺さないのですか?」
「放置だ」
「………」
あれれ? なんか話が違うんですけど? 放置ってどういうこと? 意味不明ですが?
三人の足音が遠のいていき、扉がバタンッと閉められた。おいおい、マジで放置ですか?
ポッツーン。
二、三分待ったけど、誰も帰ってきません。
何、この中途半端感は!? ねぇ、拉致したんだから、最後までしようよ! 黒幕は誰なの!? 僕を拉致した目的は!? ねーってばーっ!
「………」
マジで放置されちゃったみたい……。
仕方がないので、目隠し、猿轡、手足を縛っているロープをアイテムボックスに収納。
「はー、酷い目に遭ったよ」
ロープで縛られていた手を擦りながら、周囲を窺う。どこかの廃墟かな、もう何年も使われていないようなボロい建物の中だ。
「よっこいしょ」
我ながらジジ臭い掛け声だな。
立ち上がって扉を開けようとしたら、ご丁寧に鍵がかかっているようで開かなかった。
こういう時こそ魔法陣が役に立つ! パパッと魔法陣を形成し、魔法を発動させる。
ズシャシャシャッ。
魔法陣が発動すると、無数の風の刃が木の扉を切り刻んで、バラバラと木の破片が飛び散った。
一般的な詠唱魔法は属性に適性がないと発動しないけど、魔法陣はどんな属性の魔法でも発動させられるのがいいところだね。
属性の適性がないと、威力が多少劣ったり、消費魔力が多いというデメリットはあるけど、元々魔法陣の消費魔力は少ないので詠唱魔法よりはるかに魔力消費は少ないんだよね。
外に出てみるが、すでに夜になっており真っ暗だった。これまで目隠しされていたので暗闇に目は慣れているので見えるのだが、目の前に川が流れているだけだった。いや、少し離れたところに、尖塔が見える。神殿か何かだと思われる。
「仕方がない。あの尖塔までいき、夜明けまで大人しくしておくか」
しかし、中途半端な人たちだったなー。




