第21話 一一歳の勅令
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第21話 一一歳の勅令
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学園でダンジョンフローがあった四日後、僕は長兄パテリアスに呼ばれた。
なんだろうかと思い、長兄の部屋に入った。
「デルク。お前とフィーデリア嬢の婚約は解消になった」
「はい? ……あの、どういうことですか?」
「フィーデリア嬢は第三皇子であるグラディック殿下の目にとまったのだ。だから、グラディック殿下と婚約が決まった」
「そ、そうなの……ですか……」
「この解消は皇帝陛下の肝煎りである。よって、我が家は男爵から子爵に陞爵だ」
ああ、なるほど。陞爵を餌に、婚約を解消させられたわけか。納得いかないけど、相手は皇帝か……。こりゃ、無理だな。
フィーデリアとは、やはり縁がなかったのかな……。
あれ、フィーデリアが転生者だから避けていたはずの僕が、なんでこうも残念に思っているんだ?
いや、その理由は分かっているじゃないか。僕はフィーデリアが好きなんだ。
それなのに、フィーデリアとの婚約が解消されてしまった。僕はどうすればいいんだ。
悶々とし、考えが纏まらない。
朝のランニングをしていても、身が入らない。なんかもうどうでもよくなったって感じだ。
フィーデリアとの婚約解消で、ここまで精神的なダメージを受けていることに、自分自身が驚いている。
「デルク様、ご当主様がお呼びです」
兄にまた呼ばれた。連日呼ばれるなんてこれまでになかったのに、どうしたのかな?
フィーデリアと婚約解消になった僕は、ゲルミナス子爵家との繋がりが切れた。そんな僕に、用はないと思ったんだけど?
部屋に入ると、長兄の他に壮年の男性がいた。身なりはかなりよいことから、それなりの身分だと思われる。
「兄上、お呼びとうかがい参上しました」
「デルク……こちらへ」
長兄の様子がおかしい。どうしたのだろうか? この人物が関係しているんだろうけど、何者なんだ?
「こちらは侍従のバレンサーム殿だ」
侍従? 皇帝の側近じゃないか。そんな人がなんでここに? いや、それ以前にそんな人がいるのに、なんで僕を呼んだの?
「デルク・ナグラーと申します。以後、お見知りおきください」
「侍従のバレンサームです。この度は、皇帝陛下の勅命を申し伝えるためにまかり越しました」
「え、勅命?」
侍従さんは懐から勅令を取り出し、僕たちに掲げた。
「デルク。こちらへ」
僕は長兄の横で、侍従さんが持つ勅令に膝をつき、頭を下げた。
勅命を受ける際には、このように礼をとる必要があるのだ。
「勅! ナグラー家を子爵に陞爵させ、バグラーの地を与えるものなり」
「はっ、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
僕も長兄に倣って礼を言った。
これでナグラー家は、領地持ちの子爵家だ。
でも、なんで僕がこの場に立ち会うのだろうか? 僕よりも前当主の父や、兄の実母や子供たちが立ち会うのが普通なんだけど?
長兄は勅令を恭しく受け取った。
これで終わりかと思ったら、侍従さんはまた懐から書状を取り出した。それにも『勅』と表書きされている。
勅令が二通? どういうこと?
「デルク。頭を下げよ」
「あ、はい」
「勅! ナグラー家のデルクには、フィーデリアとの婚約解消など、迷惑をかけた。よってここに賠償金を支払うものなり」
「えっ!?」
何が起きているの!? 皇帝が謝罪? そんなことあるの?
隣の長兄の顔を見ると、かなり驚いているよ。それほどのことだと思う。
「また、皇帝の名において、デルクとフィーデリアの婚約を公式に認めるものとする。以後、ゲルミナス家とナグラー家に対し悪意を持って干渉することを禁ずることを布告する」
はい? いったいどうなっているの、これ?
婚約の公認はいいとして、悪意を持って干渉するのを禁止……ありがたいけど、それを布告するということは、うちやフィーデリアのところに被害を与えた者は、罰せられるということ? そんなことがかつて布告されたことあったっけ?
「デルク、謝罪をお受けし、ご配慮に感謝申し上げろ」
「あ、はい……謝罪を受け入れます。また、寛大なる対応をしてくださり、ありがとうございます」
侍従さんが勅令を僕に差し出したので、恭しく受け取った。
侍従さんはそそくさと帰っていった。
たしか勅令の使者は、盛大におもてなしするはずなんだけど? なんで帰ってしまうのかな?
「兄上……何がどうなっているのですか?」
「デルク……」
「なんでしょう?」
「……本日、城が崩壊した」
「はい?」
城が崩壊って、ヤバいっしょ!? なのに、なんで勅令で僕への謝罪? 意味不明なんですが?
「やったのは、フィーデリア嬢だ」
「ええええっ!?」
「私は薬事製錬局に戻っており無事だったが、宮廷魔法使いや騎士たちは皆無力化され、皇帝陛下はフィーデリア嬢に下った」
「はいぃぃぃぃぃぃっ!?」
宮廷魔法使いや騎士たちを皆無力化? 皇帝が下ったって何? 兄は何を言っているの!?
てか、フィーデリアは何をしているの!?
「えっと……トレイウス兄上とクライス兄上は無事なのですか?」
「お前の婚約解消の話があったことで、関係者の二人は警護から外されており、今日は自宅待機中だった。おかげで無様を晒さずに済んだ」
「そうなんですね……なんというか、とにかく無事でよかったです。でも、なんでフィーデリアが、というか、フィーデリアは無事なのですか!?」
「フィーデリア嬢は、デルクとの婚約を解消させられ、大層怒ったそうだ。おかげで城は倒壊、皇帝陛下は廃人寸前、グラディック殿下は廃嫡の上幽閉で、宮廷魔法使いや騎士たちは皆無力化され、城はフィーデリア嬢ただ一人によって完全掌握されたそうだ」
魔法の天才でも、そんなことができるものなのか?
たしかに今のフィーデリアの魔力は、他者の追随を許さないほどだけど、相手はエリートたる宮廷魔法使いや騎士だよ? フィーデリアのすごさは、僕の想像をはるかに超えているということか。しかし……。
「えーっと……なんでグラディック殿下が廃嫡なのですか?」
「グラディック殿下が横恋慕したことで、デルクとフィーデリア嬢の婚約が解消されたからだろうな」
「それで廃嫡……?」
フィーデリアはそんなに僕を想ってくれていたのか!?
「今回の賠償金も不干渉も全てフィーデリア嬢が皇帝陛下に認めさせたものだ。はぁー、私もお前の婚約解消を了承したからな……ぶっ飛ばされるのかな……」
長兄は青い顔をして震えている。それほどフィーデリアの怒りはすさまじかったということなんだろうけど……。
「とにかくだ、デルクとフィーデリア嬢は再び婚約することになった」
「そ、そうですか……」
「拒否はできないぞ。何せ魔王がデルクとの婚約を望んでいるのだからな」
「ま、魔王?」
「ああ、フィーデリア嬢のことだ。皆が彼女のことを魔王と呼んでいる。畏怖の念を込めてな」
お、おぅ……魔王か……。
宮廷魔法使いや騎士を一人で無力化させ、城を崩壊させたフィーデリアは魔王と呼ぶに相応しいのか。




