第20話 憤怒のフィーデリア
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第20話 憤怒のフィーデリア
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「フィーデリア、よかったな!」
その瞬間、フィーデリアの拳がゲルミナス卿の顔面をとらえた。幻の右ストレートが炸裂したのだ!
ぶっ飛ばされたゲルミナス卿は、壁まで飛んでいった。
「ぐべっ……」
フィーデリアは無意識に身体強化を発動し、そのパワーでぶっ飛ばされたゲルミナス卿は、一瞬で意識が吹っ飛び、壁をズルズルと落ちていった。
「「なっ!?」」
(この私の幸せライフを奪うとは、どうやらこいつらは本気で死にたいらしいわね。簡単に死ねると思うなよ!)
「何をしているのだ!?」
「フィーデリア!?」
「黙れ!」
フィーデリアの膨大な魔力が爆発したように放出された。
皇帝とグラディックは、それによって吹き飛んでいく。
激流のような魔力の暴力は、天井を突き破り、壁を破壊し、床を割った。
皇帝とグラディック、そしてゲルミナス卿は、さらに吹き飛んでいくことになる。
グラディックは瓦礫の中に埋もれ、ゲルミナス卿は瓦礫の上を転がり続け、皇帝は瓦礫に引っかかりうな垂れている。
この荒れ狂う魔力の津波により、皇帝の私室を中心にして広範囲に破壊されていった。
だが、人死には一人もいない。まるでフィーデリアが、人々を守ったかのような状況である。ただし、城への被害は甚大なものだ。
瓦礫を踏みしめ、皇帝へと迫るフィーデリア。
皇帝の前に仁王立ちするフィーデリアの、その姿は正に魔王。
「アガガガ……」
「誰が頼んだ?」
「え?」
「誰が婚約を解消したいと言った?」
「………」
「誰があの自己陶酔者のガキと結婚したいと言った?」
「………」
「答えなさい。さもないと、殺すわよ」
「ひぃっ……余は……余は……皇帝であるぞ」
その瞬間、皇帝の顔面に拳がめり込んだ。
「ぐべっ」
「私の問への、答えじゃないわ。次に私の問に答えなければ、腕を失うことになるわよ。よーく、考えて答えなさいね。で、誰があのクソガキと結婚したいと言ったのかな?」
「………」
皇帝は黙り込んだ。グラディックは自慢の息子だ。容姿端麗で成績もいい。誰もがグラディックの伴侶になりたがる。
だから、フィーデリアも同じだと思い、デルクとの婚約を解消させ、魔法の天才であるフィーデリアをグラディックの婚約者に据えた。
たかが子爵家の令嬢が、皇子を婿に迎え伯爵の正室になれるのだ。それは名誉なことであり、貴族令嬢であれば誰もが羨むようなことだ。
だから、皇帝もフィーデリアが喜ぶと思い、何も疑うことはなかった。
皇帝のその沈黙はフィーデリアへの答えとして、〇点だった。一点ももらえない。だから、右腕が飛んだ。魔法の刃によって、斬り離された。
「ギャーッ!?」
「うるさいわね。私は心と心が繋がっているデルクと引き離されたのよ。それに比べれば、そんなもの痛くも痒くもないわよ」
無茶なことを言う。
それに、デルクと心と心が繋がっているというのも、フィーデリアの妄想だ。
ここにデルクがいたら「え、そうなの!?」と叫んでいたことだろう。
「この落とし前、どうつける気なの?」
どこかのチンピラやヤクザのような言葉だが、その威圧はヤクザどころの話ではない。
「あひ、ひぁ、うぅぅ……」
膨大で剣呑な魔力の暴力。皇帝はさすがというべきか、魔力が高い。そんな皇帝であっても、フィーデリアの魔力には敵わない。
持っていない者にとって、この魔力は危険なものだった。気が狂いそうになるほどの、そんな恐怖を皇帝の魂に刻み込むのに十分だったのだ。
「ちっ、だらしないわね。ヒール。ほら、治ったわよ。痛みなんてないでしょ」
フィーデリアは怒っていたが、決して冷静さを失っていたわけではない。
皇帝に危害を加えておいて、冷静なのかと思うだろうが、城の中にも外にもフィーデリアの脅威になるような人物はいない。それが分かっているからこそ、鉄拳制裁を行ったのだ。
そんなわけで結構冷静なフィーデリアは、皇帝の腕を止血してやった。あくまでも傷口を塞いだだけであるが、一〇年も前の古傷のように傷は塞がっていた。
「あああぁぁぁ……余の腕が」
「これは罰よ。腕の一本で済むかは、これからのあんたの回答次第だけどね」
「ひぃぃぃっ」
「で、この落とし前はどうつけるわけ?」
その時、フィーデリアに魔法が飛んできた。もちろん、彼らの動きはフィーリアに把握されている。
「マナフィールド」
無属性の魔力によって、防御バリアを張る。このマナフィールドにより、全ての魔法が防がれる。フィーデリアには、傷一つついていない。
当然ながら城には多くの宮廷魔法使いや騎士がいる。そういった者らが集まってきたのだが、彼らの放つ攻撃は一切フィーデリアには届かない。
「うるさいわね」
「お前たち、こいつを殺せ! 早く殺せ!」
「黙れ、虫けら!」
「ぎゃびっ!?」
皇帝の右足が斬り飛ばされる。
「ギャーッ!?」
「お前たちもうざいわよ。寝ていなさい。サンダーウエーブ」
雷撃の波が全方向へと放たれた。回避不能、防ぐにはこれ以上の魔法で打ち消すしかない。
それはフィーデリア以上の魔法が使えなければできないのだが、今のフィーデリアに敵う魔法使いは、この場にはいなかった。
そもそもフィーデリアに匹敵するほどの魔法使いは、世界規模で見ても探すのが難しいくらいである。そんな魔法の達人が都合よくここに居合わせることは、まずない。
それにフィーデリアは他人の強さを肌で感じることができるのだが、そういった人物の存在はまったく感じない。この感覚は恩恵や技能ではなく、なんとなくそういったことが分かるもので、勘と言えるものだろう。
一瞬にして、城内にいた者全てが倒れた。元々倒れていた者も、追い打ちとなって動けない。
「さて、次は左腕よ。その次は左足。徐々に斬り刻んであげるわ」
「ひっ、ひぃぃぃぃぃっ」
目の前に広がる情けない姿を晒す宮廷魔法使いと騎士たち。
皇帝の心は折れた。
ポッキリ折れた。
あとはフィーデリアに従順に従うのみ。
皇帝の美しい金髪は、この時の恐怖によって真っ白になるほどだった。
まるで一〇〇歳の老人のような顔になった皇帝は、ただただフィーデリアの怒りが収まることを待ち願った。
「それじゃあ、無理矢理婚約を解消させられたデルクには、賠償金を払うわね」
「はい」
「デルクと私の婚約を、皇帝の名において発表すること」
「はい」
「クソ雑魚皇子グラディックは廃嫡し、二度と私とデルクの視界に入らないようにすること」
「はい」
「皇帝もクソ雑魚皇子も他の皇族も、直接、間接を問わず、デルクと私、家族、そしてその子孫たちに悪意を持って干渉しないこと」
「はい」
フィーデリアはそれらを書面にし、皇帝にサインさせた。
もちろん、皇帝の腕と足は元通りに生やした。くっつけるのではなく、生やしてしっかりサインさせた。
全属性(極)を持つ魔法の天才であるフィーデリアにとっては、腕や足の再生でさえおちゃのこさいさいだった。
皇帝がサインすると、その文字が皇帝の体へと這い上がっていき、その顔中にへばりつき、染み込んでいく。
「あばばばば……」
「この契約を破れば、その呪いがアンタに苦痛を与え、一〇〇日間苦しんだ挙句、死ぬわ。アンタが死んでも、その呪いは子々孫々に受け継がれるからね♪」
「はい」
「ああ、そうそう。あのクソオヤジ(ゲルミナス卿)には、二度と私の前に現れるな、と言っておいてね」
「はい」
フィーデリアに黙って婚約解消を決めたゲルミナス卿は、すでに父親認定から外されている。
もう二度とゲルミナス卿を父と呼ぶことはない。それほどのことを、ゲルミナス卿はやってしまったのである。




