第10話 九歳の入学式
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第10話 九歳の入学式
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今日は入学式。ちょっとだけ緊張している。
学生服は米海兵隊の軍服に似ていて、重厚感がある。貴族の正装や、役所勤めの際の制服もこの系統の服なので、今後は何かとこういった服を着ることになるだろう。
魔動車に乗って通学。一応、貴族ですから。
この魔動車には、僕の他に姉のスピカと姪なんだけど年上のヒラリマナと、同じく甥で年上のアウンレスが同乗する。
当家では、魔動車のような高級なものは、五台しか所有していない。一台は前当主の父が使い、一台は現当主の長兄パテリアスが使い、一台は三年前から薬事製錬局で働いている年上の甥(長兄パテリアスの長男)が使い、一台は僕たちが通学で使い、最後の一台は他の家族が使うものだ。
男爵家としては一般的な所有数だと聞いている。
ヒラリマナは今年一五歳で最上級生の六年生、アウンレスは今年一二歳で三年生、スピカは今年一三歳で四年生だ。
甥は二人とも長兄によく似ていて、茶髪茶目で中の下か下の上くらいの容姿だ。
姪のヒラリマナは母親に似ていて、美人さんでよかった。それに、テルガルド伯爵家の長男と婚約していて、卒業したら結婚だ。
一〇分ほどで学園の門を入ったけど、そこからさらに五分走った。男爵家用の車止めで僕たちは降りた。貴族の格で、駐車場が決まっているんだよ。
「それじゃあ、私たちは教室にいくわ。デルクはここを真っすぐいくと、クラス分けの掲示板があるから、それを見て進みなさい」
「うん」
スピカに説明を聞き、三人に手を振って別れた。僕は甥、姪と仲が悪いわけじゃないし、虐められてもいない。良好な関係だよ。
並木の下を歩いているけど、学生が多い。当然か、ここは学園内だもんね。
「あ……」
フィーデリア嬢が魔動車から降りてきたのが見えた。相変わらずの存在感だ。彼女の周囲だけ、花が咲いているよ。
「おはよう、フィーデリア嬢」
「うん、おはよう」
「「………」」
はい会話終了。
だが、この日の僕はいつもと少し違うのだ!
「あっちにクラス分けの掲示板があるんだって」
「うん」
「一緒にいっていいかな?」
「……うん」
今の間はなんだろうか? 僕とは歩きたくないのかな? その理由を聞くのが怖いんですが!?
「「………」」
歩いているけど、会話がない。
これ以上は無理だ。
一〇分ほど歩いたかな、この学園はとにかく広い。
掲示板に各クラスが貼り出されている。
僕は政務科で一年F組、フィーデリア嬢は魔法科で一年A組だ。
案内に従い、入学式が行われる講堂に入る。
「僕はあっちだ。またね」
「うん」
それぞれのクラスに別れて座る。少し待つと、入学式が始まった。
学園長の長い話は、異世界でも変わりないようで、軽く三〇分は話し続けた。幸いにも椅子に座っていられたので、倒れる生徒はいなかったが、寝ているのは何人もいた。僕も時々意識が飛びそうになったよ。
学園長の話って、どうして子守歌のように聞こえるのかな? 世界を超えた不思議だよね。
その後、在校生代表(生徒会長)の女子生徒の話の後に、新入生代表のフィーデリア嬢が登壇した。え、新入生代表なの? つまり、入試の最高得点者ってことだよね? マジか~。
フィーデリア嬢の声は凛としていて、耳にスーッと入ってくる。
フィーデリア嬢の挨拶が終わると、今度は来賓の挨拶だ。大臣や局長たちが代わる代わる登場して、僕たちを睡眠へ誘う。それに耐えられない生徒は多い。
入学式が終わり、教師についてクラスへと移動。各学年で校舎が別れていることから、他の学年とは顔を合わさない。
僕のF組の教室は二階にあり、席は自由に座れる。生徒数は四〇人くらいかな、席はその倍くらいあるので、空いている場所が半分くらいある。
僕は窓際の真ん中くらいに座った。残念ながら知り合いはいないので、一人だ。
すでにいくつかのグループができているようで、公爵、侯爵、伯爵といった上級貴族の家柄の生徒を中心に、子爵、男爵、騎士爵、官士といった下級貴族家の子供たちが取り巻いている。
以前も触れたと思うけど、平民が国の軍人や役人になった際に功績を立てると、一代限りの貴族に叙される。それが騎士や官士である。当然ながら、役所を退所したら貴族ではなくなるが、二〇年務め上げたら辞めた後でも騎士や官士のままらしい。
政務科は国や貴族家で働く文官を養育する科になるが、数ある科の中で一番人気がない。だから、クラスはF組だけしかない。
似たようなクラスに、貴族科がある。貴族科は魔法と武術の授業もあるし、領地経営のノウハウを学ぶ。正に貴族らしい貴族になるための科だ。こちらは人気がある。
政務科は、魔法も武術も学ばない。学ぶことは領地経営を中心に、商売学、投資学、土木学、建築学、法律学など座学しか学ばない科なのだ。
この学園の一番人気は、魔法科だ。魔法科を優秀な成績で卒業すれば、最初から宮廷魔法使いになれる。
魔法使いは人気の職業で、一流になると賢者の称号が与えられ、待遇は大臣並みとなるらしい。
フィーデリア嬢はその賢者候補の一人なわけですね。




