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異世界から帰ってきたら終末を迎えていた ~終末は異世界アイテムでのんびり過ごす~  作者: 十本スイ


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「っ……ぜえ……ぜえ……ぜえ」


 無事目的地に辿り着き、妹とともに安全な場所に身を置くという本懐を遂げることができた理九だったが、現在土砂降りに濡れたような汗をかいて床に横たわっていた。


「おいおい、もうへばっちまったのか? ったくよぉ、ほれ水」


 そこへ呆れながらも近づいてきたのは、当主である時乃と初めて対面した時に現れたワイルドイケメンであった。その手には水の入ったペットボトルを持っている。

 差し出されたペットボトルを受け取ると、力一杯起き上がり壁に背を預けて座り込む。そしてカラカラになった喉を潤すために水を流していく。


「おお、おお、いい飲みっぷりだな。はぁ、これが酒だったら嬉しいんだけどなぁ」


 肩を大げさに竦めながらも、自身も持っていたペットボトルの水を飲み始める。

 そんな彼の姿を横目に見ながら、激しく鼓動する心臓を抑えるように深呼吸をして息を整えていく。


 彼の名はワイルドイケメン……ではなく、岡山篤史といって、年齢は理九よりも十歳上の二十九である。アラサーにもかかわらず、その肉体は格闘家のように若々しく引き締まっていて逞しい。


「さて休憩は終わりだ。もう大丈夫か?」

「……はい」


 ちなみに何故理九が満身創痍だったかというと、岡山がこの洋館で割り当てられている仕事の手伝いをしていたからだ。

 ここに住むには働かないといけない。それは普通のことだろうから別に文句はない。


 しかしながら、仕事にも適材適所というものがあると思う。


(何で僕が……)


 チラリと、その視線を積み重なっているソレに向ける。

 そこにあるのは大量の木箱や段ボール。その中身は、缶詰めやパック系の食材、または日用品などだ。


 ここは倉庫になっていて、様々なものがジャンル分けして、それぞれの棚に置かれ保存されている。しかし当然仕分けして、棚に置く必要があり、それらは人の手で行われているのだ。 


 元々体力が無い理九は、こういう肉体労働が得意ではない。一番軽いとされる段ボールでさえ一つニ十キロ以上はあり、それを運ぶだけでも必死だ。

 理九がようやく一つの棚に、三つの段ボールを運び終えた時には、岡山は三十キロ以上の木箱を十個以上運び終えている。まるで大人と子供のような成果の違いだ。


(これだから力仕事はイヤなんだ……)


 すでに全身の筋肉は限界を迎えたようにプルプルしている。対して岡山は汗こそかいているが、まだまだ体力は有り余っている様子。


(日門なら、風でサクッと運んだりできるんだろうなぁ……ズルイ)


 いや、そもそもアイツなら数分で、仕事を完遂していてもおかしくないが。何せ小石を軽く投げつけて、ゾンビの頭を粉砕するのだから、その膂力は尋常ではないはず。


(あーあ……今頃小色は何してんのかなぁ。あの当主様に気に入られてたけど、無事だといいけど……)


 あの反応から無茶なことはさせないと思うが、あの子に会いたい、声を聞きたいと求めてしまう。


「おーい、いつまで休んでんだよ。あんまサボってるとお嬢に――」


 いつまでも動かない理九に、聞きたくなく岡山の声が響いたその時、


「――お兄ちゃん!」


 今もっとも耳にしたい音が鼓膜を震わせてきた。反射的に声の方へ顔を向けると同時に思考が停止した。何せそこにいたのは、確かに愛しの妹だったのだが……。


「……こ、小色? お前……何て恰好してるんだよ?」


 その身には、どういうわけかメイド服を纏っていたのである。


「えぅ……あまり見ないでよぉ」


 恥ずかしそうにモジモジする姿を見て、思わず鼻から熱いものが流れそうになったが、今はそれよりも聞かなければいけないことがある。


「……もしかしてあの当主様の言いつけか?」

「う、うん。時乃様のお世話係になってね。それでこの服を常に着るようにって」


 なるほど。そういう理由だったか。


(しかしあの当主……分かってるじゃないか)


 小色には悪いが、ハッキリ言って滅茶苦茶似合っている。むしろその姿でお世話をしてもらいたい。だから当主に凄まじい嫉妬心が募る。


「ところで何でここに?」

「あ、えと……お兄ちゃんの様子を見たいって言ったら、少しだけならって許可をもらって」


 余所者の望みをあっさりと叶えるとは、思った以上に良い当主なのかもしれない。まあ、イケメンや美女美少女だけに限るのだろうが。


「でもお兄ちゃん、汗だくだけど大丈夫?」

「……お前は僕のことを心配なんてしなくてもいいんだ」

「え、でも……」

「安心しろって。大丈夫だから。ちゃんと仕事もして、お前の傍にずっと居続けるからさ」


 重苦しい身体を立ち上がらせ、さらに笑みを浮かべながらそう告げた。


「お兄ちゃん…………うん、分かった。わたしも頑張ってお仕事するね! だから一緒にがんばろ!」


 それだけを言うと、小色は軽く手を振ってから去って行った。


「……できた妹だな」

「はい…………す~は~……よしっ!」


 小色のお蔭で気合が入った。そうだ、弱音など吐いている場合ではない。生き残るためにも、小色の傍にいるためにも、今自分ができることを力一杯するしかないのだから。


「岡山さん、次の仕事はなんですか!」

「お~やる気だな。んじゃ、木箱行ってみるか」

「………………段ボールでいいっすか?」


 最後はやはり決まらない理九であった。





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