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第5話 お嬢様、特別授業で“校外合宿”!?


 月曜日の朝。

 俺がいつものように昇降口前の掲示板を眺めていると、やけに目立つポスターが目に入った。


 > 『生活指導強化週間:サステナブル合宿のお知らせ』



「……なんだこれ」


 読んでみると、内容はこうだ。


「SDGsの一環として、山間の生活体験施設にて共同生活を行い、持続可能(サステナブル)な暮らしのあり方を学ぶ」——要するに、1泊2日の合宿らしい。



「な、何それ!? まさか庶民の暮らしを体験させる気!? く、屈辱よ……っ!」


 案の定、背後から聞こえるお嬢様の悲鳴。


 振り返れば、顔を青くしたエリザベートがポスターを睨みつけていた。


「いや普通に合宿だろ。炊事・洗濯・掃除の実習だってさ」


「よりによって、その三つ!? 庶民のライフスキルコンボじゃない!」


「あーはいはい、大変だなご令嬢」


 心底イヤそうな顔のエリザベートを横目に、俺はクラスの貼り出しに目を向ける。


 どうやら今回は、クラスの垣根を越えた混合班でのくじ引きらしい。A組もB組も、それ以外のクラスも一緒になって編成されている。


(せめて気楽なメンツがいいな……)


 そう思っていた矢先、俺の名前の横に並んでいたのは——



《高坂翔馬・鳳条院エリザベート・紅蓮寺ミア・御門隼人》


「いや、嘘だろ」


 見なかったことにしようと一瞬思ったけど、現実は無慈悲だった。


「……運命って、たまに意地悪よね」


 どこかで聞いたような声が耳に届いた瞬間、俺は思わず横を見る。そこにいたのは、


「お前は……紅蓮寺ミア」


「ふふふっ、ちゃんと覚えていてくれたんだ。嬉しいなぁ」


 金髪にパッチリした瞳、どこか神秘的な空気をまとった転校生。俺のクラスの隣、B組に所属している。



「まさか君と同じ班になるなんて、これはもう宿命でしょ?」


「いや、ただのくじ引きだから」


 俺が呆れ気味に言うと、ミアはふふっと笑った。


「そう言って運命を侮ると、足元をすくわれるわよ?」


 ……このテンション、変わってないな。


 彼女とは以前、放課後に唐突に話しかけられて以来、妙に印象に残っている。不思議ちゃん枠ってやつだ。


(でもコイツの言うこと、馬鹿にできないから怖いんだよな……)


 隣で涼しげに笑うその声が、妙に耳に残った。



 ◆


 数日後、俺たちはバスに揺られて山奥へ。


 到着したのは、木造の古びたロッジ風施設だった。見た目はまあ味があるというか……いや、正直ボロい。



「え、なにここ……古民家? 廃墟?」


 エリザベートが目を見開き、絶句している。


「こんな環境、人間の住む場所じゃないわ!」


 いやいや、ちゃんと住めるだろ……多分。


「お湯が出ない!? 電波もない!? 暖房が薪ストーブ!? え、火って、自分で起こすの!?」


 次々と叫ぶお嬢様。


 俺も多少は覚悟してたし貧乏生活で慣れてるけど、ここまでとは思わなかった。


「まあ……頑張れ」


 そう言うしかない。



 その後、荷物を部屋に置いて共同作業エリアへ移動。


 班分けの結果、俺とエリザベート、そして御門とミアという、なかなかにカオスな組み合わせが出来上がっていた。


 御門は相変わらずクールな顔で「このメンバーなら問題ない」と言い切るし、ミアはニコニコしながら「これは絶対、運命の導きだね!」とか言ってる。



 そしてそのメンバーで与えられた最初の課題が——焚き火。


 俺とエリザベートが担当になった。


「火って……マッチでつければいいのよね?」


「いや、その前に薪を組まないと。空気の通り道を作って……」


 焚き火なんてお手の物である。昔からよく姉ちゃんと一緒に近所の河川敷で魚を釣って、焼き魚にして飢えをしのいで……うっ、なんだか涙が出そう。


「つまり、下から酸素を取り入れて燃焼効率を高めるってわけね」


「そ、そう! なんで知ってるんだよ……」


「理論くらいは分かるわ。でも実践は別問題よ。手を貸しなさい」


 そう言って、エリザベートは慎重な手つきで薪を並べていった。動作はぎこちないが、真剣そのものだ。



 マッチを使って数回。

 最初はなかなか火がつかなかったが、エリザベートが小枝を足しながら慎重に風を送ると——


「おぉ……」


 小さな火がぱちりと弾け、やがて薪に移って、ようやく安定した炎が立ち上がった。



「……やったわ!」


 誇らしげに笑うエリザベートに、俺は自然と拍手を送っていた。


 だが、そのまま無意識にスカートをひらつかせながら焚き火へ身を乗り出していく。


「おい、動くな。スカートで焚き火に近づいたら——」


 ——パンッ!


 火花が弾けた次の瞬間、布の焼ける匂いが鼻をかすめた。


「キャアアア!?」


 エリザベートのスカートの裾が、ほんの少し焦げた。


「たっ、助けなさいよアンタ!」


「動くなって言っただろ! ほら、水——!」


 俺は近くのバケツから手早く水をすくって、焦げた部分にぱしゃっとかけた。


 じゅう……と蒸気が立つ。



「……ばかぁ」


 涙目で頬を膨らませるエリザベート。


「大丈夫かな、この合宿……」


 まだ合宿は始まったばかりなのに、前途多難すぎ。




「せっかくの合宿だし、夕飯は腕前を競ってみないか?」


 昼食後、片付けがひと段落したところで、御門がそんなことを言い出した。


「料理勝負、というやつか?」


 俺は眉をひそめながら問い返す。


 まさかこいつ、料理までバトルに持ち込むタイプか? さすが生徒会長、無駄に攻めてくる。



「勝者には、敗者が“言うことをひとつ聞く”というのはどうかな。もちろん、良識の範囲で、だけど」


 そう言って、御門は静かに笑った。


 だけどその目は、明らかにやる気だ。

 完全に遊びじゃない顔してる。



「面白そう!」


 割って入ったのはミア。相変わらず飄々としてるが、目が妙にきらきらしている。こういう勝負事、好きそうだもんなぁ。


 っていうか、俺は反対なんだけど。やるメリットだって無いし?


 多数決ならもう一人反対票が必要か。


 俺はちらりとエリザベートを見る。彼女は腕を組んだまま顎を上げて——


「上等よ! 私たちが勝って、後悔させてあげるわ!」


「いや、まだ俺なんも言ってな——」


「アンタは私の相棒なんだから、当然参加よ!」


 完全に決定事項らしい。


 そうして、俺たちの運命の(?)料理勝負が確定した。



「てか勝負って言ったって、具体的にどうするんだよ……」


「そうだね。それなら……テーマは“ルーなしで本格カレー”でどうかな?」


 本格って……俺、給食のカレーしか知らないんですけど。


 エリザベートと俺 vs ミアと御門。


 なんなんだこの組み合わせ。面倒な予感しかしないぞ!?



 そして数時間後。


「――はぁ、仕方ない。まずは材料の確認でもするか」


 俺は配布された食材リストを手に取りながら、使えそうな野菜とスパイスをチェックする。



「タマネギ、人参、ジャガイモ……鶏肉にトマト缶、香辛料もそれなりに揃ってるな」


「ふふん、見てなさい。私は一度覚えた味を再現するのが得意なのよ」


 エリザベートは袖をたくし上げ、エプロンを結びながら自信満々。


「再現って、どこの味を思い出してるんだよ」


「昔、ホテルで食べた洋風カレー。あれを庶民の食材で再現するのが今日のミッションよ!」


「……ハードル高ぇな」



 一方、隣のかまどではミアが鼻歌まじりに野菜を刻み、御門は計量スプーンでスパイスをきっちり計っていた。


「完璧な分量こそ、料理の基本だ」


「私は直感派〜♪」


 対照的なふたりなのに、なぜか息は合ってるらしい。



「くっ、負けてられないわ!」


 エリザベートが勢いよくフライパンを火にかけ、俺は慌てて火力を調整する。


 カレー作りという名の戦場は、静かに、しかし確実に熱を帯びていた。



 俺の手元では、刻んだ野菜たちがじっくりと炒められていく。


 玉ねぎの甘い香りがふんわりと立ちのぼって、ちょっとだけ達成感を感じた。


「いい色になってきたな。玉ねぎも飴色に近づいてる」


 木べらを動かしながら、俺は小さくつぶやく。


「翔馬、そこにこのスパイスを入れていいかしら?」


 エリザベートが意気揚々と小瓶を差し出してきた。中身はパプリカ、クミン、ターメリック、そして……なんか妙にドス黒い謎のミックススパイス。



「ちょ、そんなに入れる気なのか!?」


「わ、私、特別な調合を覚えてるのよ! 昔パパが招いたシェフがこうしてた気がするの!」


 待て、それ“気がする”って一番信用ならないやつ!


 俺の制止もむなしく、エリザベートはテンション高めにパッパッと数種類のスパイスを豪快に鍋へ投下していった。



「うわ、ちょっ、待て待て待て! それ入れすぎじゃないか!?」


「だ、大丈夫よ! きっと味に深みが出るはず!」


 そんな自信満々に言われても、不安しかない……。



 ——そして数分後。


 試食用に一口すくって口に入れた瞬間、俺の舌が絶叫した。


「ッッッッッッかっっら……!!」


 口の中が業火。マジで水! 水をくれ!!


「う、うそでしょ……? 私の特製ブレンドが……」


 エリザベートはショックを隠しきれず、鍋を覗き込んで固まっている。



 一方、隣のミア&御門ペアはというと——


「おいしい〜♪ あったかくて優しい味」


 ミアがにこにこしながら味見し、御門は「完璧だ」とうなずいた。まるで料理番組の世界だ。


 ……もう勝負の流れは見えていた。



 そうしてやってきました試食タイム。


 審査員は、担任の鶴岡先生と、俺の隣の席の佐藤。


 佐藤は俺の友人だが、実家が町の人気洋食屋で料理には一家言あるタイプ。


「翔馬は友達だけど、俺は公平に判断するからな。料理人の息子としての誇りがあるんで」


 真顔で言い切る姿、地味にかっこいいぞお前。



「さて、それでは鳳条院さんのチームから。……ふむ。この香りは複雑ですね。辛味が前に出ていて……というよりスパイスの暴力?」と鶴岡先生。


「こ、これは……スパイスの個性が喧嘩してる……! いや、してるっていうか殴り合ってる……!」と佐藤は苦悶の表情でうずくまった。



 一方で、ミアと御門のカレーを口にした瞬間、二人の表情が一変する。


「おおっ、これは……深みと優しさが両立している!」


「まろやか……! これなら三杯いける!」


 あー、ですよね!?



「今回の勝者は——ミア&御門ペアです!」


 拍手が巻き起こる中、俺たちはただ呆然と立ち尽くすしかなかった。


 エリザベートは顔を青くして、その場に硬直していた。


「う、うそでしょ……」



 そのとき、御門が一歩前に出る。


「では、約束通り“お願い”を聞いてもらう。今夜のキャンプファイヤーが終わった後、エリザベートさんと二人で少し話がしたい」


「ちょ、お前……」


 思わず俺が口を開いたその瞬間、


「……いいわよ。勝負に負けたのは事実だもの」


 エリザベートは静かに言った。 けれどその横顔は、普段の勝ち気な顔じゃない。少しだけ俯いて、なんだか……知らない表情をしていた。


 心が、ざわついた。



(つーか、二人きりで何するつもりだよ……)


 なんか嫌だった。エリザベートが御門に奪われるみたいで。


 ……なにやってんだよ、俺。別に彼女は誰のものでもないってのに。



「おーい翔馬、なんかお前の態度、さっきから変じゃね?」


 後ろから聞こえた佐藤の声に振り返ると、ニヤニヤした顔がそこにあった。


「は? いつも通りだし」


「ふーん? そういうことにしとくわ。ま、がんばれ」


 ぽん、と肩を叩かれて、俺は黙り込む。


 ……そういうことって、どういうことだよ。


 でも、気づいてしまった。


 そのあともしばらく、俺の視線は、エリザベートの後ろ姿に釘付けだったことに。





――――――――――――――――――――

クラスの好きな子が他の奴と二人で何かするって、物凄い嫉妬と不安がよぎりますよね……

そしてそういうときの“嫌な予感”ってたいてい当たるという(´;ω;`)


まぁ皆さん同じ経験があるからこそ、寝取りや寝取られというジャンルが流行るんでしょうけどw


さて、翔馬とエリザベートの関係も深まってまいりました!

「二人のジレ恋の行方が気になる!」「おもしろい!」

と思ってくださった方は是非、★評価などをお願いいたします!


次回は明日の12時半ごろ予定!

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