第96話「パーティーの始まり」
① 個室レストランでの再会
12月24日、夜7時。
予約していた個室レストランに、5人が順番に集まった。
「わぁ、すごいね!」
結花が目を輝かせながら、豪華な内装を見渡す。
暖かな間接照明、白いクロスが敷かれたテーブル、そしてテーブルの中央には小さなクリスマスツリーが飾られていた。
「まるで映画のワンシーンみたいだな。」
朔が椅子に腰かけながら軽く笑う。
「ほんと、それ!」
結花がすかさず頷く。
「お前、クリスマスだからってはしゃぎすぎじゃねぇ?」
「はしゃいでないよ! ただ、こういうの憧れてたんだもん。」
結花はふくれっ面をしながらも、楽しそうだ。
「いい雰囲気だね。」
隼人が落ち着いた声で頷く。
「食事も期待できそうだ。」
幸次はメニューに目を通しながら静かに言う。
美紅はそんな4人の姿を見ながら、少しだけ頬を緩めた。
(……本当に、こういうクリスマスは初めてかもしれない。)
② 乾杯と談笑
「じゃあ、そろそろ始めよっか!」
結花がグラスを手に取り、みんなに視線を向ける。
「メリークリスマス!」
「メリークリスマス。」
5人はグラスを軽く合わせ、静かに響く音とともに、それぞれ微笑んだ。
料理が運ばれ、ワインやジュースが並ぶと、自然と会話が弾み始める。
「ところで、みんなはクリスマスってどんな風に過ごしてた?」
結花の問いかけに、それぞれが思い出を語り始めた。
③ クリスマスの思い出
「俺は毎年、友達と騒いで終わってたな。」
朔が笑いながら言う。
「朝まで飲んで、気づいたら知らねぇやつの家で寝てたこともあった。」
「なにそれ、最低!」
結花が即座にツッコむ。
「クリスマスって、そういうもんじゃねぇの?」
「ちがうよ! もうちょっと、こう……ロマンチックな感じとかさ……。」
「結花、お前は乙女すぎる。」
「は? 乙女でなにが悪いの!」
「はいはい、分かった分かった。」
朔が肩をすくめる。
「相変わらずだね、朔くんは。」
美紅がクスクスと笑う。
「僕は、教会で過ごすことが多かったよ。」
「そうだよね、隼人さんは。」
結花が納得したように頷く。
「クリスマスイブの礼拝が終わった後、父と一緒に教会の飾りつけをしていたのを思い出すな。」
「へぇ……。」
美紅が静かに耳を傾ける。
「家でケーキとかは食べなかったの?」
「うん、ケーキは礼拝のあとに信者さんたちと分け合って食べてた。」
「……隼人さんらしいですね。」
美紅はクスッと笑った。
④ 隼人の微妙な違和感
「結花は?」
美紅が尋ねると、結花は少し考えたあと、笑顔で答えた。
「子どもの頃は、家族と一緒にケーキを食べたりしてたよ。でも高校の頃は……そうだなぁ、バイトとかで忙しかったかも。」
その言葉を聞いた瞬間、隼人はふと違和感を覚えた。
(……樫村理央のことは話さないんだな。)
結花の笑顔は自然だったが、それがどこか無理をしているようにも見えた。
(彼女は理央のことを忘れたのか? それとも、まだ気にしているのか……?)
隼人の胸の奥に、説明のつかない感情が広がっていく。




