表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/167

第91話「かつての夢」

① 隆一が家を出た日


「……俺は自由に生きる。」


その言葉を最後に、隆一は家を出た。


隼人が中学二年生の冬のことだった。


(……兄貴がいなくなる。)


その現実を受け止めきれず、隼人はただ玄関のドアが閉まる音を聞いていた。


家業を継ぐはずだった兄がいなくなった。


(じゃあ……誰が、父さんを支える?)


考えたとき、答えは一つしかなかった。


(俺が……やるしかない。)


その瞬間、隼人の未来は決まった。


② 夢を諦めた日


「神学校に行こうと思う。」


高校二年の春、隼人は父にそう告げた。


「……そうか。」


父は少し驚いたようだったが、すぐに深く頷いた。


「お前がそう決めたなら、応援するよ。」


「うん。」


そう返事をしながらも、隼人の胸の奥では小さな痛みが広がっていた。


(本当は……俺も、小説を書きたかった。)


幼い頃から、文字を書くことが好きだった。

家族や社会をテーマにした物語を書くのが楽しかった。


でも——。


(俺は、兄貴みたいに自由に生きることはできない。)


(誰かがこの家を支えなきゃいけないなら、それは俺の役目だ。)


だから、夢を諦めることにした。


(これで、いい。)


そう言い聞かせながら、ペンを置いた。


③ 現在の隼人


「……それで、俺は牧師になった。」


隼人はコーヒーを飲みながら、静かに語った。


「……そうか。」


朔は腕を組みながら、じっと隼人を見つめていた。


「まあ、今さらどうこう言うつもりはないよ。」


隼人は、どこか達観したように微笑む。


「でも……。」


「?」


「もし兄貴が別の道を選んでいたら?」


隼人は少しだけ視線を落とした。


「俺は、今も小説を書いてたかもしれない。」


その言葉に、朔はゆっくりと煙草に火をつけた。


④ 幸次の言葉


「まあ、書けるうちに書いとくのが正解だな。」


幸次が淡々と呟く。


「……幸次さん?」


「俺も昔は書いてたけど、途中でやめた。」


「どうして?」


「さあな。」


幸次は静かに笑い、カップを傾けた。


それ以上は語らなかったが、そこには何かの諦め があった。


隼人は、そんな幸次の横顔を見つめながら、自分の選択について改めて考えていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ