第87話「振袖選びの日」
① 振袖レンタルショップへ
約束の日の朝——。
「お兄ちゃん! 遅刻しないでよね!」
「分かってるって。」
結花に念を押されながら、朔は車を運転し、5人は予約していた振袖レンタルショップへ向かった。
店に到着すると、華やかな振袖がずらりと並んでいる。
鮮やかな色合い、繊細な刺繍、格式高い柄——どれも美しく、目を奪われるものばかりだった。
「うわぁ……すごい……。」
美紅は目を輝かせながら店内を見渡す。
「ねっ? だから早く来ればよかったのに!」
結花が得意げに微笑む。
「……すみません、どんな振袖をお探しですか?」
店員が優しく声をかけると、結花がすかさず答える。
「上品で、古典的で、赤!」
「……え?」
「美紅にぴったりなやつを探してるんです!」
「えっと……。」
美紅は少し戸惑いながらも、店員に続く。
② いくつかの候補
「こちらはいかがでしょう?」
店員がいくつかの振袖を持ってくる。
・深紅に金の刺繍が施された格式高いもの
・優しい朱色に桜模様が描かれた可愛らしいもの
・落ち着いた赤に牡丹の花が咲く華やかなもの
「……どれも素敵ですね。」
美紅はそっと生地に触れながら、悩んでいた。
「せっかくだし、試着してみたら?」
隼人が穏やかに勧めると、美紅は少し考え、頷いた。
「……うん。」
試着室へ向かう美紅を、結花は「絶対似合うよ!」と送り出した。
③ 試着室の前で
試着室から美紅が出てくると——。
「……!」
その場にいた4人の視線が彼女に集まった。
美紅が選んだのは、深い紅に金の刺繍が施された、格式高い振袖。
凛とした雰囲気がありながらも、上品な美しさを引き立てている。
「すごく……綺麗だ。」
思わず、結花が感嘆の声を漏らした。
「似合ってるよ、美紅。」
隼人も優しく微笑む。
朔は少しだけ視線を逸らしながら、「まぁ、悪くねぇな」と呟いた。
しかし、美紅本人はまだ少し不安そうな表情をしていた。
(これで、本当にいいのかな……。)
そう思っていると——。
「それがいい。」
低く落ち着いた声がした。
振り向くと、幸次が静かに彼女を見つめていた。
「……幸次さん?」
「それが一番、お前らしい。」
短く、けれどはっきりと告げる幸次の言葉に、美紅の胸がドクンと高鳴る。
(“私らしい”……。)
自分のために選ぶことの意味。
それが、ようやく腑に落ちた気がした。
「……これにします。」
美紅はそっと微笑みながら、店員に伝えた。




