第85話「成人式の話題」
① 何気ない会話からの気づき
11月の終わり、冬の冷たい風が吹き始めるころ——。
美紅と結花は、大学帰りにいつものカフェで温かい紅茶を飲んでいた。
「そういえばさ、成人式の準備もうした?」
結花がふと聞く。
「え?」
「振袖とか、前撮りとか。もうすぐ予約しないと間に合わないよ?」
「あ……。」
美紅はカップを持つ手を止めた。
「振袖、まだ決めてない……。」
「えっ、まだ?」
結花が驚いた顔をする。
「うん……。」
美紅は少し気まずそうに俯いた。
「前撮りとかも……?」
「してない。」
「そっか……。」
結花は美紅の表情を見て、すぐに察した。
(……そうだよね。美紅には、お母さんがいないんだもん。)
普通なら、母親と一緒に振袖を選ぶものだ。
でも、美紅にはその存在がいない。
だから、振袖を選ぶという行為自体が、どこか遠いものに感じていたのかもしれない。
② 結花の決意
「じゃあさ!」
結花がパッと笑顔になった。
「みんなで振袖選びに行こっ!」
「えっ……?」
「せっかくの成人式なんだから、ちゃんとお気に入りの振袖着ようよ! お母さんがいなくても、私たちがいるじゃん!」
美紅は少し驚いた顔をした後、目を伏せる。
「でも……。」
「でも?」
「なんか、どう選んでいいかも分からないし……。」
「そんなの、一緒に選べばいいじゃん!」
結花は迷いなく言う。
「みんなで行けば、きっと楽しいよ!」
「……そう、かな。」
「そうだよ!」
結花は明るく微笑む。
(美紅には、ちゃんと成人式を楽しんでほしい。)
その想いが、結花の言葉に込められていた。
③ みんなへの提案
数日後、5人が集まるいつものカフェ。
「えっ、美紅、振袖まだ決めてないの?」
隼人が驚いたように言う。
「うん……。」
「じゃあ、みんなで見に行こうよ!」
結花がすかさず提案する。
「俺たちが?」 朔が少し面倒くさそうに眉を上げた。
「当たり前でしょ! こういうのは、一緒に行くのが楽しいの!」
「まあ、確かに選ぶの大変そうだしな。」
隼人が納得するように頷く。
「幸次さんも、予定大丈夫ですか?」
美紅が恐る恐る聞くと、幸次はコーヒーを飲みながら軽く頷いた。
「別にいいぞ。」
「やった!」
結花が嬉しそうに拳を握る。
「決まり! じゃあ、今週末に振袖見に行こうね!」
美紅は少し戸惑いながらも、小さく微笑んだ。
「……ありがとう。」
こうして、5人で振袖を選ぶ日が決まった。




