第76話 京都紅葉旅行編 第五話
「ホテルでの夜」
① 旅館に到着
「やっと着いたー!」
結花が大きく伸びをする。
5人が宿泊するのは、京都の風情漂う和モダンな旅館。
畳の香りが心地よく、落ち着いた雰囲気が広がっている。
「うわ、めっちゃいい感じの部屋!」
美紅が感嘆の声を上げる。
「いい宿取ったな。」
幸次が荷物を置きながら呟くと、結花が得意げに笑う。
「でしょ? ちゃんとリサーチしたんだから!」
「それにしても……温泉、入りたいな。」
隼人が穏やかに微笑む。
「いい旅館だし、温泉も期待できそうだな。」
「行こ行こ! せっかくだから堪能しなきゃ!」
「そうだな、温泉に入ってのんびりしよう。」
幸次が頷き、5人は荷物を置き、浴衣に着替えて旅館の大浴場へと向かった。
② 温泉でのんびり
「ふぅぅぅ……極楽……。」
湯船に浸かりながら、幸次が満足そうに目を閉じる。
「やっぱり温泉って最高だな。」
隼人もゆっくりと肩まで湯につかる。
一方、朔は湯船の縁に腕をかけながら、静かに息をついた。
「……旅行って普段あまり行かないけど、たまにはいいな。」
「たまにはな。」
幸次が湯の中で足を伸ばす。
「たまにはこうして、のんびりするのも大切だよ。」
隼人が柔らかく微笑む。
「お前、普段から余裕あるよな。」
朔が言うと、隼人は少し驚いたような顔をした後、「そう見える?」と静かに笑った。
「まぁな。たぶん、俺と幸次とは違うタイプだと思う。」
「そうかもな。でも、朔も意外と落ち着いてる方だと思うけど。」
隼人の言葉に、朔はふっと笑った。
「そうか?」
「少なくとも、俺はそう思う。」
隼人は特に深い意味はなさそうに、ゆったりと湯に浸かっている。
(まぁ……隼人は、こういうところが昔から変わらねぇよな。)
朔は静かに湯船に体を沈めた。
(俺は……このままでいいんだよ。)
何も変えずに、このまま。
③ 女子部屋のガールズトーク(美紅の気づき)
一方、女子部屋では、結花と美紅が浴衣姿で布団に転がっていた。
「やっぱ温泉、最高だったね!」
「うん、気持ちよかった。」
「なんか、こうやって旅行するの久しぶりじゃない?」
「確かに。」
美紅がふっと微笑む。
「こうしてみんなで過ごせる時間って、すごく大事だなって思う。」
「ねー! じゃあ、恋バナでもしちゃう?」
「えっ……?」
美紅が驚くと、結花はニヤリと笑った。
「美紅ってさ、好きな人いないの?」
「え、えっと……。」
「もしかして、いる?」
「い、いないよ!」
美紅は慌てて首を振るが、結花は「ほんとかなぁ?」とじっと見つめる。
(……でも、私……誰が好きなんだろう?)
結花の何気ない問いに、ふと幸次の顔が思い浮かぶ。
紅葉を見ていたとき、何気なく話していたとき、食事をしているとき——。
自然と視線が彼を追っていたことに、今さらながら気づく。
(私……幸次さんのこと、好きなの……?)
不思議と、嫌な感じはしなかった。
むしろ、心の奥が温かくなるような感覚が広がっていく。
「ねぇ、美紅?」
「えっ?」
「どうしたの? なんか急にボーッとして。」
「え、いや……なんでもない!」
「怪しいなぁ……。」
結花がじっと見つめてくるが、美紅は慌てて布団にもぐり込んだ。
(……もう、隠しきれないかもしれない。)
そう思いながら、そっと胸に手を当てた。
④ 朔の静かな時間
男子部屋では、隼人と幸次がすでに布団に入り、それぞれスマホを見たり、本を読んだりしていた。
一方、朔は一人、ホテルの庭園に出ていた。
静かな夜の風が、ゆっくりと吹き抜ける。
(……美紅は、どう思ってるんだろうな。)
楽しそうに笑う彼女を見ていると、どうしても考えてしまう。
でも、結局のところ——
(俺が何を思っても、関係ないんだよな。)
何も言わなければ、何も変わらない。
それが一番いい。
「……さて、そろそろ戻るか。」
夜風に吹かれながら、朔はゆっくりと部屋へ戻っていった——。
⑤ 美紅の確信
美紅は布団の中で、そっと目を閉じる。
心の奥が少しだけ騒がしい。
(……好きなんだ。)
静かに、だけど確かにそう思った。
幸次さんが、好き。
でも、それを言葉にするのは、まだ怖かった。
(もう少しだけ、この気持ちと向き合ってみよう。)
そう決めた美紅は、そっと瞳を閉じた。




