第69話 理央の想い
(“過去の恋” と “今の気持ち”——再会がもたらす変化)
① 理央の視点——再会の余韻
桜山教会を後にした理央は、ホテルの部屋でひとり窓の外を眺めていた。
(……まさか、あんな形で再会するとはな。)
結花と別れてから数年。
理央は、俳優としてのキャリアを着実に積み上げ、主演作も決まるようになった。
世間的には”成功した男”になりつつある。
でも——
(なんで、こんなに気持ちがざわつくんだよ。)
結花と再会した瞬間、“昔の感覚” が一気に蘇った。
彼女は以前よりも柔らかい雰囲気になっていて、でも、どこか芯の強さを感じさせた。
(……楽しそうだったな。)
それが、なぜか胸に引っかかった。
② 結花の”今” を知る
数日後、理央は仕事の合間にスマホを開いた。
検索バーに、何の気なしに**「陽川結花」**と打ち込んでみる。
(……今さら何やってんだ、俺。)
自分にツッコミを入れながらも、指は止まらなかった。
すると、いくつかの地域イベントの記録が出てきた。
“教会や福祉施設で歌を届けるシンガー”
理央は、その活動内容をじっと読んだ。
(……そういう道を選んだんだな。)
結花は芸能界にいるわけではない。
彼女は、彼女なりのやり方で”音楽” を通じて人々とつながっていた。
(あいつ、今は……自分の歌を、もっと自由に歌ってるんだな。)
その事実に、少しだけ胸が締めつけられた。
③ 結花への未練——それとも?
その夜。
理央はマネージャーの電話を受け、次のドラマ撮影の話をしていた。
「理央、主演の話が来てるぞ。今度は ‘王道のラブストーリー’ だ。」
「……また、恋愛もの?」
「そうだ。今のお前なら、間違いなくハマる役だよ。」
理央は苦笑しながらも、ふと考える。
(俺は……本当に “俳優” という道を歩みたかったのか?)
昔は、“結花にふさわしい男になりたい” と思っていた。
だからこそ、芸能界で成功することに全力を注いできた。
でも——
(今の俺は、“結花の隣にいたい” と思ってるわけじゃないよな?)
彼女は、彼女の道を見つけて歩いている。
そして、自分もまた、俳優としての道を進んでいる。
(なのに……どうして、こんなに気になるんだ。)
答えが見つからないまま、理央は静かに目を閉じた。
④ 交差する未来
翌日。
理央は、次の撮影のためにスタジオ入りしていた。
「樫村さん、本日の撮影よろしくお願いします!」
「お願いします。」
監督や共演者と軽く挨拶を交わしながら、ふと考える。
(……また、結花に会うことはあるのかな。)
(もし、もう一度ちゃんと話せる機会があったら——。)
そのとき、自分が何を言うのか、まだ分からない。
でも、再会したことで、確かに何かが変わった気がした。
(また、“あいつの歌” を聴いてみたいな。)
その思いが、胸の奥で静かに広がっていた。




