第64話 新たな出会い
(“支える歌”をさらに広げるために——伊吹奏介との出会い)
① 教会でのイベント出演
結花の音楽活動が少しずつ広がり始めたころ、隼人からある話を持ちかけられた。
「今度、教会で地域の交流イベントがあるんだけど、結花ちゃんに歌ってほしいんだ。」
「えっ、わたしに?」
「うん。教会に通っている子どもたちや、ご高齢の方々が集まる会でね。“みんなで楽しめる音楽の時間” を作りたいって話になってるんだ。」
結花は少し考えた。
(幼稚園や福祉施設では歌ったけど……“イベント” っていうのは初めてかも。)
「……できるかな?」
「もちろん。結花ちゃんの歌なら、きっとみんな喜んでくれるよ。」
隼人が優しく背中を押してくれる。
(やってみよう。)
そう決意し、結花はイベント出演を引き受けることにした。
② 伊吹奏介との出会い
イベント当日。
結花は、会場の教会に早めに到着し、リハーサルの準備をしていた。
すると、ステージの設営を手伝っていた一人の男性が、結花の方へ近づいてきた。
「君が、今日歌ってくれるっていう子?」
「はい! 陽川結花です。」
「伊吹奏介。よろしくな。」
そう言って、爽やかに微笑む彼。
(この人が、隼人さんの知り合い……?)
隼人が後からやってきて、二人を紹介した。
「奏介さんは、地域で音楽ボランティアの活動をしてるんだ。いろんな場所でイベントを企画したり、音楽を通じた支援をしてるんだよ。」
「へぇ……すごいですね!」
「いやいや、好きでやってるだけさ。」
奏介は気さくな雰囲気で笑う。
「俺も今日、ギターで伴奏するから、よろしくな。」
「えっ、一緒に演奏してくれるんですか?」
「うん。隼人に ‘結花ちゃんの歌は心に響く’ って聞いてさ。すごく楽しみにしてたんだ。」
「そ、そんな……!」
結花は少し照れながらも、嬉しくなった。
(この人と一緒に演奏できるの、なんだか楽しみかも。)
③ 結花の歌が広がる瞬間
イベントが始まり、結花は奏介のギターの伴奏で歌い始めた。
会場には、子どもたちからお年寄りまで、さまざまな人が集まっていた。
最初は少し緊張していたが、歌っていくうちに、結花の心は自然と落ち着いていく。
(ああ……やっぱり、歌って楽しい。)
(そして、誰かに届くのって、もっと嬉しい。)
曲が終わると、会場は温かい拍手に包まれた。
(……よかった。)
結花は、安心したように微笑んだ。
④ 伊吹奏介の言葉——新たな可能性
イベントのあと、奏介が結花に声をかけてきた。
「すごく良かったよ。結花ちゃんの歌、聴いてると温かい気持ちになる。」
「ありがとうございます!」
「ねえ、結花ちゃん、“もっといろんな場所で歌ってみる” っていうのは、どう?」
「え?」
「俺が関わってる施設や、地域のイベントで、結花ちゃんみたいな人が歌ってくれたら、すごく喜ばれると思うんだ。」
結花は、一瞬戸惑った。
(“もっといろんな場所で” か……。)
「今まで福祉施設や幼稚園で歌ったけど……もっと広げるっていうのは、考えてなかったかも。」
「せっかくいい歌を届けられるんだから、もっと多くの人に聴いてもらったらいいんじゃない?」
「……わたしにも、できるかな?」
奏介は優しく笑った。
「もちろん。結花ちゃんの歌は、ちゃんと人の心に届くよ。」
その言葉が、結花の胸にじんわりと染み込んでいく。
(“もっと多くの人に歌を届ける”……。)
今まで漠然と歌っていたけれど、活動の幅を広げることで、もっと誰かの支えになれるのかもしれない。
(やってみよう。)
新しい可能性を感じながら、結花は力強く頷いた。




