第63話 結花の第一歩
(“支える歌” を届けるために——結花の挑戦が始まる)
① 初めての場所で歌う
結花は、初めての”支える歌”の活動として、幼稚園で歌う機会をもらった。
隼人の紹介で、教会に併設された幼稚園でボランティアをすることになったのだ。
(子どもたちの前で歌うの、ちょっと緊張するな……。)
そう思いながらも、ピアノの前に立つ。
「みんなー! 今日は楽しい歌を歌おうね!」
「はーい!!」
子どもたちの元気な声に、結花はふっと笑った。
(よし、やってみよう。)
ピアノの音が響き、結花の歌声がそれに重なる。
♪ 〜 ほら、手をつないで 〜 ♪
歌い始めると、自然と子どもたちの目が輝いた。
そして、結花の歌に合わせて手を叩きながら、一緒に口ずさむ子どもたち。
(あ……なんか、すごく嬉しい。)
プロのステージでもないし、観客は子どもたちだけ。
でも——
(今、この子たちの心に”歌”が届いてる。)
その実感が、結花の心を満たしていった。
② 隼人との会話——“歌が持つ力”
その日の帰り道。
教会の入り口で、隼人が結花を待っていた。
「お疲れさま。」
「ありがとう!」
「すごく楽しそうだったね。」
「うん……なんか、思ったよりもすごく嬉しくて。」
結花は、今日感じたことを隼人に話した。
「わたし、今まで ‘自分が上手く歌うこと’ ばっかり考えてたんだと思う。でも、今日歌ってみて……“誰かに届ける歌” ってこういうことなのかなって。」
隼人は優しく微笑む。
「それが、“心に届く歌” なんだよ。」
(……そうか。)
理央と付き合っていた頃、結花はずっと”彼にふさわしい自分”でいることばかりを考えていた。
でも、今は——
(私は、私の歌を届けたい。)
その気持ちが、より一層強くなっていた。
③ 福祉施設での新たな挑戦
翌週、結花は次のステップとして、福祉施設で歌うことを決めた。
「お年寄りの前で歌うのは、また違った緊張があるな……。」
幼稚園とは違い、静かに結花の歌を聞いているお年寄りたち。
(ちゃんと届いてるかな?)
不安になりかけたとき、ふと、一人のおばあさんが手拍子を始めた。
そして、その場の空気が少しずつ和らいでいく。
(……届いてる。)
ゆっくりとした時間の中で、結花の歌は静かに響き、心を温めていく。
歌い終わったあと、一人のおばあさんが結花に話しかけた。
「あなたの歌、とても素敵だったわ。」
「……ありがとうございます!」
「昔、私の娘がよくこの歌を歌ってたの。懐かしくて、涙が出ちゃったわ。」
そう言いながら微笑む姿を見て、胸がじんわりと温かくなった。
(わたし……やっぱり、この道で間違ってない。)
④ それでも、ふとした瞬間に蘇る記憶
活動を始めてから、結花は”理央のこと”を思い出すことが少なくなっていた。
でも——。
ある日、帰り道でふと街のビルの大きな広告を見上げた。
そこには、理央が出演する映画のポスターがあった。
(……理央。)
彼は、結花の知らない場所で頑張っている。
結花も、自分の道を進んでいる。
(これで……よかったんだよね。)
そう思いながらも、胸がチクリと痛む。
まだ完全に忘れられたわけじゃない。
でも——
(私は、私の道を歩くって決めたんだから。)
そう、自分に言い聞かせて、結花は前を向いた。




