第62話 結花の新たな挑戦
(“誰かを支える歌” を届けるために——結花の選択)
① 音楽に向き合う時間
理央と別れてから数ヶ月。
結花は、以前よりも音楽に向き合う時間を増やしていた。
授業が終わればすぐに音楽室へ向かい、ひとりで発声練習をする。
(もっと上手くなりたい。)
そう思えば思うほど、練習に熱が入った。
しかし——。
「……なんか違うんだよね。」
上手くなりたい気持ちはある。
でも、“どう歌いたいのか” が分からない。
(私は、どんな歌を歌いたいんだろう?)
今まで、ずっと”正しく歌う” ことばかりを意識していた。
でも、それだけでは”自分の歌”にはならない気がした。
(もっと、自分らしい歌を見つけなきゃ。)
そう思ったとき、結花の心に浮かんだのは——
「……隼人さん。」
② 隼人との再会と、歌のヒント
週末、結花は教会を訪れた。
礼拝の後、隼人が結花に気づいて、柔らかく微笑む。
「結花ちゃん、最近よく来るね。」
「うん、なんか……ここに来ると落ち着くから。」
「そっか。」
隼人の隣に座ると、教会の奥から静かに聖歌隊の歌声が聞こえてきた。
結花はふと目を閉じる。
「……やっぱり、歌ってすごいね。」
「うん?」
「だって……心が洗われるみたいな気持ちになるもん。」
「そうだね。歌は、心に届くものだから。」
隼人の言葉に、結花はふっと笑った。
(そうか……“心に届く歌”。)
(私に足りないのは、そこなのかもしれない。)
③ 目標を見つける——“プロ”ではなく”支える歌”を
その夜、結花は自分の部屋で歌詞ノートを開いた。
(“正しく歌う” ことも大事だけど、それだけじゃダメ。)
(もっと、“自分の気持ちを込めた歌” を歌いたい。)
そう思ったとき、スマホの中のある音楽を再生した。
それは、小さい頃に歌っていた歌だった。
(……私、この歌が好きだったな。)
理央はもういない。
でも、“歌” ならいつでもそばにある。
そのとき、ふと、子どもの頃に教会の聖歌隊で歌っていたことを思い出した。
(そうだ……わたし、“プロのシンガー” になりたいわけじゃない。)
(わたしは、“誰かのために歌いたい” んだ。)
幼稚園や福祉施設で、歌を届ける。
音楽の力で、人を癒し、笑顔にする。
(それが、わたしのやりたいことなのかもしれない。)
その瞬間、結花の中で”目標”がはっきりと決まった。
「わたし……“誰かを支える歌” を届けたい。」
そう呟いたとき、結花の心は少しだけ軽くなった。
④ 結花の新たな挑戦
翌日、結花は学校の音楽の先生を訪ねた。
「先生、わたし……福祉施設とか、幼稚園とかで歌う活動を始めたいんです。」
先生は少し驚いたように結花を見た。
「プロの歌手を目指すんじゃなくて?」
「はい。“プロ” じゃなくても、歌で誰かを支えられると思うんです。」
先生は少し黙った後、ゆっくりと微笑んだ。
「結花なら、きっと素敵な歌を届けられるわね。」
その言葉に、結花は力強く頷いた。
(理央と別れて、たくさん悩んだけど——。)
(私は、“結花” としての人生を生きる。)
そう決めた結花の表情は、以前よりもずっと晴れやかだった。




