第十三部:別れのその後
(“理央のいない日常” そして “新たな自分を探す”)
① 理央がいない日常
理央と別れてから、数週間が経った。
結花は、今までの生活を取り戻そうとしていた。
(……大丈夫。)
朝起きて、学校へ行き、歌の練習をして、友達と笑い合う。
それだけで十分なはずなのに——。
理央と過ごした時間が、ふとした瞬間に蘇る。
「なあ、今日はどっか行くか?」
「寒いなら手、貸せよ。」
「……お前みたいなやつがいねえと、俺みたいなのはちゃんと生きていけねえんだよ。」
(……バカ。)
彼の声が頭の中で響いて、胸が痛くなる。
理央のいない日常は、思ったよりも静かで、思ったよりも寂しかった。
② それぞれの道へ
ある日、結花はテレビをつけた。
そこには、理央がいた。
『話題の若手俳優・樫村理央、初主演映画が決定!』
(……すごい。)
理央はもう、完全に”結花の知らない世界”の人になっていた。
画面の中で、プロの顔をしてインタビューに答えている。
「主演が決まったときの感想は?」
「……まだ実感ねえけど、全力でやります。」
(……頑張ってるんだね。)
胸がチクリと痛んだ。
(でも……。)
(理央の夢は、ちゃんと叶ってるんだ。)
結花は、静かにリモコンを置いた。
③ 忘れられない気持ちと、前に進む決意
理央と別れてから、結花は改めて自分の夢を見つめ直した。
(わたしも……ちゃんと進まなきゃ。)
そう思っても、理央への気持ちは簡単に消えてくれなかった。
「……隼人さん。」
ある日、久しぶりに教会へ足を運んだ。
隼人が穏やかな笑顔で迎えてくれる。
「結花ちゃん、久しぶり。」
「……うん。」
久々に隼人の顔を見たら、なんだか安心してしまって、胸がいっぱいになった。
(ああ……やっぱり、隼人さんは変わらない。)
「……大丈夫?」
「……うん。」
「無理してない?」
「……ううん。」
隼人の優しい声を聞いたら、涙がこぼれそうになった。
(ダメだ……まだちゃんと、前を向けてない。)
でも、そんな自分を受け入れようとも思った。
「ゆっくりでいいよ。」
隼人の言葉が、そっと結花の心に寄り添った。
④ 結花の決意——自分の道を探す
理央がいなくなって、結花は改めて自分に問いかけた。
(わたしは、これからどうしたい?)
理央は”俳優”として夢を叶えようとしている。
では、自分は——?
(わたしは……やっぱり、歌を歌いたい。)
理央と別れたことで、結花は気づいた。
彼が夢に向かって走り出したように、わたしも”自分の道”をちゃんと見つけなきゃいけない。
(誰かの隣にいるだけじゃ、ダメなんだ。)
(わたしは、わたしの人生を生きる。)
そう決めたとき、不思議と心が軽くなった。
そして結花は、新たな一歩を踏み出す——。