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第5話 音楽と日常Ⅱ

(美紅と結花の放課後/教会でのボランティア)


① 放課後の寄り道


「ふぅー! 今日も疲れたー!」


校門を出るなり、結花が思いっきり伸びをしながら叫ぶ。


「美紅、疲れてる?」


「うーん、まあ普通?」


「もっと『疲れたー!』とか言っていいんだよ?」


「言ってどうにかなるもんでもなくない?」


「いや、発散になるじゃん! ほら、一緒に叫ぼ?」


「やだ」


即答する美紅に、結花は「ちぇー」と頬を膨らませながら、それでも楽しそうに歩く。


音楽大学の授業は実技中心で、結構な体力を使う。

特に声楽専攻の2人は、発声練習や舞台表現の指導で一日が終わる頃にはぐったりしていた。


「今日のレッスン、先生めっちゃ細かくなかった?」


「うん。なんか、いつもより厳しかったよね」


「美紅の歌、すごい綺麗だったのに」


「ありがと。でも、また“感情をもっと出せ”って言われた」


「えー、でもさ、美紅の歌ってさ、そういうとこがいいんだよね」


「どういうこと?」


「なんかこう、透き通ってるっていうか、聴いてると切なくなる感じ?」


「……それ、感情こもってないってことじゃない?」


「あれ?」


「ふふっ」


美紅が珍しくクスッと笑うと、結花は「あ、やっちゃった!」と慌てる。


「違う違う! そういう意味じゃなくて! 美紅の歌って特別感あるんだって!」


「ありがと。でも、もうちょっと感情こめられるように頑張るよ」


「うん! 私ももっと表現頑張る!」


そんなやりとりをしながら、2人は歩いていく。

向かう先は——教会。


彼女たちは、放課後に教会でボランティアをしていた。


② 教会での仕事


教会に着くと、ひんやりとした静かな空気が2人を包む。


「こんにちはー!」


結花が元気よく声をかけると、奥から聖石隼人が穏やかな笑顔で迎えに出てきた。


「お疲れさま。今日もありがとう」


「いえいえ! 美紅、今日も頑張ろう!」


「はいはい」


2人の主な仕事は、教会に併設された幼稚園の手伝いと、教会の掃除。


「今日は、子どもたちとお絵描きをしてもらえる?」


隼人がそう言うと、結花が勢いよく手を挙げる。


「やりまーす!」


「じゃあ私は掃除しとく」


「えーっ、美紅も一緒にお絵描きしよ?」


「いや、子どもと遊ぶの苦手」


「もう、またそうやって避けるー」


「掃除も大事でしょ」


「まあねぇ……でも今度は絶対一緒にやるからね!」


「……気が向いたら」


③ 子どもたちとの時間


結花が幼稚園の部屋に行くと、子どもたちが嬉しそうに駆け寄ってきた。


「ゆーいか先生ー!」


「今日もいっぱいお絵描きしようね!」


「もちろん! みんな何描きたい?」


「うーんとね、うさぎ!」


「ぼくは車!」


「いいねー! じゃあ先生も描いちゃお!」


結花は、子どもたちと一緒になって夢中で絵を描き始める。


「ねえねえ、みく先生は?」


「え? 美紅?」


「うん! みく先生は、なんで来ないの?」


「えーっと、美紅は掃除担当なの!」


「そっかー。でも、みく先生にも絵を描いてほしいなぁ」


「……あとで誘ってみるね!」


結花はそう言って微笑んだ。


④ 幸次との会話


一方、美紅は教会の礼拝堂を掃除していた。


窓を拭きながら、ふと廊下の向こうに座っている北村幸次の姿が目に入る。


「……」


彼は、何かの本を読んでいた。


美紅は、一度は掃除に戻ろうとしたが、ふと気になって彼の近くまで歩いていった。


「何読んでるんですか?」


幸次は顔を上げ、美紅を見て、本の表紙を見せる。


「遠藤周作の小説」


「へえ……うちのおじいちゃんも、その人の本よく読んでた」


「お前のじいちゃん、本好きだったのか?」


「うーん、詳しくは知らないけど、母が言ってた。昔よく読んでたって」


「そうか……」


美紅は、なんとなく幸次の表情が曇ったように見えた。


「北村さんは、なんでその作家好きなんですか?」


「……昔、友達が好きだったからな」


「へぇ。その友達って?」


「……ただの古い知り合い」


美紅は、なんとなくそれ以上は聞かなかった。


けれど、彼の言葉の奥に何か隠れている気がしていた。


⑤ 帰り道


ボランティアを終えた帰り道。


結花が楽しそうに言う。


「ねえ美紅! 今日、子どもたちが『みく先生も絵を描いてほしい』って言ってたよ!」


「そうなの?」


「うん! 今度は一緒にやろ!」


「……考えとく」


「えー! それ絶対やらないやつ!」


美紅は、小さく笑った。


それから、ふと今日のことを思い出す。


幸次が読んでいた本。

「昔の友達」の話。

そして、おじいちゃんの好きだった本。


「……」


もしかして、偶然じゃない?


そう思ったけど、考えすぎかもしれない。


「ねー! 美紅! 考え事禁止!」


「え?」


「今日はいっぱい働いたんだから、考えるのは明日にしよ!」


「……はいはい」


美紅は、静かに夜空を見上げた。


少しずつ、何かが繋がり始めている気がした。



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