第56話 理央との関係の変化
(“恋人”という関係の中で、少しずつ変わっていく気持ち)
① もっと近づきたいと思うようになった
付き合い始めて三ヶ月が経ったころ。
結花は、以前よりも”理央のことをもっと知りたい”と思うようになっていた。
(理央って、ぶっきらぼうだけど……本当は優しいよね。)
それに、たまに見せる不器用な照れ方も、ちょっと可愛いと思うようになった。
ある日、二人でファミレスにいたとき。
ふと、結花は気になっていたことを口にしてみた。
「ねえ、理央ってさ、小さい頃どんな子どもだったの?」
「……は?」
「気になるじゃん!」
「別に普通。」
「嘘だ! 絶対に人と関わりたくない系の子どもだったでしょ!」
「……まあ、否定はしねえけど。」
結花がくすっと笑うと、理央は少しだけ頬をかいた。
「お前は?」
「わたし? うーん、今とそんなに変わらないかも?」
「だろうな。」
「え、どういう意味?」
「……バカみたいに明るい。」
「ちょっと! バカって何!」
「褒めてんだよ。」
「え?」
「お前みたいなやつがいねえと、俺みたいなのはちゃんと生きていけねえんだよ。」
理央はそう言って、結花の手にそっと触れた。
(……!)
手をつなぐのは、まだ慣れない。
だけど、こうして少しずつ距離が縮まるのが嬉しいと思った。
② 隼人との距離
隼人とは、最近ほとんど連絡を取っていなかった。
大学生になった隼人は忙しく、以前のように教会で頻繁に会うこともなくなった。
気がつけば、結花の生活の中で隼人の存在は少しずつ遠くなっていった。
(……そういえば、隼人さん、どうしてるのかな。)
久しぶりにふと思い出すけれど、そのあとすぐに理央の顔が浮かぶ。
そして、その瞬間に結花は気づいた。
(あれ……わたし、もう隼人さんのことを考えてない。)
昔は、隼人のことを考えると胸が苦しくなったり、ドキドキしたりしたのに。
今はもう、そんな感情はなくなっていた。
(わたし……隼人さんのこと、好きだったけど、もう過去のことなんだ。)
③ 予想もしなかった未来——理央のスカウト
そんな穏やかな日々の中、ある日、理央に転機が訪れた。
「……俺、芸能事務所にスカウトされた。」
放課後の帰り道、理央が唐突にそう言った。
「え?」
「街歩いてたら、声かけられてさ。」
「それって……俳優とか、そういうやつ?」
「まあな。」
「ええええっ!! すごいじゃん!」
「……そうか?」
理央はそこまで乗り気ではないようだった。
「お前はどう思う?」
「わたし?」
結花は少し考えてから、にっこりと笑った。
「理央ならできると思うよ! だって、カッコいいし!」
「……お前、そういうこと普通に言うよな。」
「え、だって本当のことじゃん!」
「……。」
理央は結花の言葉を聞いて、何かを考えるように視線を落とした。
(理央が芸能界に行くなんて……なんか想像できないな。)
でも、このときの結花はまだ気づいていなかった。
この”スカウト”が、二人の関係を少しずつ変えていくことになるなんて——。