第四部:高校入学と、隼人への想い
(“幼馴染”から”特別な存在”へ——新しい感情の始まり)
① 高校生活の始まりと、新たな環境
結花は中学卒業後、音楽コースのある高校へと進学した。
本格的に歌を学ぶ環境に身を置くことができるのが嬉しくて、入学式の朝から気分が弾んでいた。
「いよいよ高校生か……!」
母・奏恵に制服の襟を直してもらいながら、夢奈はワクワクした様子で鏡を覗き込む。
「楽しみね、結花。たくさん学んで、たくさん成長してね。」
「うん! たくさん歌うよ!」
父・昭吾も新聞をめくりながら微笑んだ。
「勉強もな。」
「はいはい、わかってるって!」
軽く返事をしながら、結花は玄関に向かう。
(よーし、新しい学校、楽しむぞ!)
しかし、この日——結花は運命の出会いをすることになる。
② 理央との出会い
入学式の会場、体育館の中は緊張感で包まれていた。
結花は指定された席に座り、周りを見回す。
「……。」
そのとき、隣の席の男子が視界に入った。
黒髪が少し乱れた、不機嫌そうな顔をした少年。
周囲の賑やかな雰囲気とは対照的に、彼はどこか居心地悪そうに座っていた。
(なんか、話しかけづらいタイプ……?)
結花は少し迷ったが、好奇心が勝った。
「ねえねえ!」
少年が驚いたように顔を上げる。
「……なに?」
「結花っていうの! よろしくね!」
彼は一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに視線をそらした。
「……樫村理央。」
「りお? かわいい名前だね!」
「……樫村でいい。」
少しぶっきらぼうな口調だったが、結花は気にしなかった。
(この人、ちょっと変わってるけど……なんか気になる。)
それが、結花と理央の最初の出会いだった。
③ 隼人への感情の変化
高校生活が始まってしばらくしても、結花は変わらず教会に通っていた。
そのたびに、隼人とも顔を合わせた。
しかし——最近、結花は少しだけ隼人と話すのが緊張するようになっていた。
(なんでだろう? 前までこんなことなかったのに……。)
以前はただの”幼馴染”として接していたのに、
気づけば隼人の表情や仕草を、どこか特別な目で見てしまう自分がいた。
「結花ちゃん、高校はどう?」
隼人にそう聞かれたとき、夢奈は一瞬ドキッとしてしまった。
「えっ、あっ、うん! すごく楽しい!」
「よかった。」
隼人は穏やかに微笑んだ。
(やっぱり……隼人って、大人っぽい。)
話し方も落ち着いていて、声も優しくて、前よりも”男の人”として意識してしまう。
(これって……もしかして……。)
胸の奥が、ふわっと熱くなるような感覚。
結花は、それが**“恋”の始まり**だと、まだはっきりとは自覚していなかった。
④ 音楽を学ぶ楽しさと、新たな刺激
高校の音楽コースでは、本格的なレッスンが始まっていた。
発声練習、楽典の授業、合唱のレッスン——どれも新鮮で、結花は夢中になった。
(もっと上手くなりたい……!)
そう思うたびに、自然と隼人の顔が浮かんだ。
(隼人みたいに、心に響く歌が歌えたらいいな……。)
しかし、そんな結花にとって、もう一つの”大きな刺激”となる存在が現れる。
隣の席の樫村理央。
彼は授業中もどこか無気力そうだったが、ある日、音楽の先生がこう言った。
「樫村、少し歌ってみろ。」
「……俺が?」
「そうだ。お前、意外と声がいいからな。」
理央は少し嫌そうな顔をしながらも、立ち上がると歌い始めた。
(……え。)
結花は、驚いた。
(この人、こんな声してたんだ……!)
どこか無骨で、感情がこもっているような低い歌声。
それを聞いた瞬間、結花は理央のことを少しだけ気になる存在として意識するようになった。
⑤ 隼人と理央、二人の対照的な存在
高校生活が進むにつれ、結花は隼人と理央の”対照的な存在”を意識するようになる。
隼人は優しくて落ち着いている、安心感をくれる存在。
理央はぶっきらぼうだけど、なぜか目が離せない存在。
今までずっと”隼人が一番”だった結花の心の中に、新たな選択肢が生まれつつあった。
(わたし、どっちに惹かれてるんだろう……?)
そう考えながらも、まだ答えを出すことはできなかった。