第46話 理央、結花に会いに教会へ
(隼人と理央——対照的な二人が初めて向き合う)
① 教会に現れた来訪者
夕方、桜山教会のホールには柔らかな陽が差し込んでいた。
隼人は受付で書類を整理しながら、静かな時間を過ごしていた。
——そのとき、教会の扉が静かに開いた。
隼人は顔を上げる。
そこに立っていたのは、黒いコートを羽織った長身の男だった。
洗練された雰囲気、完璧な容姿。
テレビで見たことがある。
今、若手俳優として人気を集めている樫村理央だった。
(……なぜ、こんなところに?)
「いらっしゃいませ。」
隼人は戸惑いを隠しながら声をかける。
「ここに、結花はいるか?」
低く落ち着いた声。
その言葉に、隼人は眉をひそめた。
「結花は今日は来ていませんが……あなたは?」
「樫村理央。少し前に、結花と連絡を取ったんだ。」
(結花と、連絡を?)
意外な言葉に、隼人は思わず理央を注視した。
「すみませんが、結花がここにいない以上、代わりに何か伝えることはできませんが?」
隼人が冷静に対応しようとすると、理央はゆっくりと歩み寄る。
「じゃあ……お前に聞こう。」
理央の目が鋭くなる。
「結花は、今幸せか?」
② 理央の言葉に感じる違和感
隼人はその問いに、一瞬言葉を詰まらせた。
(なぜ、彼はそんなことを聞くんだ?)
「結花は……夢に向かって頑張っています。」
「そうか。」
理央は短くそう答えた。
だが、その目はまるで探るような色を帯びていた。
「俺は、まだ彼女のことを大切に思ってる。」
「……?」
隼人の胸に、奇妙な違和感が生まれる。
理央の口ぶりは、まるで結花と深い関係だったことを匂わせているように感じた。
(……この人と、結花はどんな関係だったんだ?)
だが、それを聞くのはおかしい。
隼人は動揺を押し隠し、平静を装った。
「結花に何か伝えたいことがあるなら、直接話したほうがいいと思います。」
「そうだな。」
理央はポケットに手を突っ込みながら、ふっと笑った。
「アンタは、結花にとってどんな存在なんだ?」
③ 隼人の戸惑い
不意に向けられた問いに、隼人の心臓がわずかに揺れる。
「俺は……ただの友人です。」
そう答えた自分に、なぜか違和感を覚えた。
「本当に?」
理央の目が鋭く光る。
「アンタは知らないのかもしれないが、俺は結花にとって特別な存在だった。」
「……!」
隼人の中で、何かが引っかかった。
(特別な存在……?)
理央は隼人の反応を楽しむかのように、わざと間を置く。
「俺は結花を手放したくなかった。でも、彼女は俺を置いていったんだ。」
「……。」
隼人は、どう返せばいいのかわからなかった。
理央の言葉が、何か大きな意味を持っている気がする。
だが、結花は一度も理央の話をしたことがなかった。
「結花が、あなたと話したがらないなら、それが答えなんじゃないですか?」
「かもな。」
理央は静かに笑う。
「でも、俺は納得してない。……まだ終わったとは思っていないから。」
そう言い残し、理央はゆっくりと教会を後にした。
隼人は彼の背中を見送りながら、胸の奥に生まれたざわつきを抑えきれなかった。
(……俺は、結花のことをどう思ってる?)
理央の言葉が、頭の中をぐるぐると巡る。
「……くそ。」
隼人は静かに息を吐き、こめかみを押さえた。




