第43話 秋の訪れと日常
(夏が終わり、5人はそれぞれの日常に戻る)
① 秋の始まり
9月。
蝉の声は遠ざかり、空気は少しずつ涼しさを帯びてきた。
教会の庭では、落ち葉がちらほらと舞い始めている。
「夏が終わったねー!」
結花が両手を伸ばしながら、元気よく言った。
「そうだね。今年は随分、あちこち出かけた気がする。」
隼人は落ち葉を掃きながら、静かに返す。
「本当にね。熱海に行って、伊豆にも行って。」
美紅が微笑みながら続けた。
「次は紅葉狩りかな?」
結花が楽しげに提案する。
「いいかもな。」
朔が頷く。
「寒くなってきたし、温かい食べ物もいいな。」
幸次が静かに言う。
「ねえ、幸次さんって秋は好き?」
結花がふと尋ねると、幸次は少し考えてから答えた。
「……昔は、あまり好きじゃなかった。でも、今はそんなに悪くないかもしれない。」
「それってどういう意味?」
美紅が興味深そうに聞いた。
「秋は寂しい季節だろう? でも、賑やかに過ごせるなら、そんなに悪くないと思う。」
幸次の言葉に、一瞬の静けさが生まれる。
「そうね。今年はみんなで楽しく過ごしましょう。」
美紅が微笑みながら言うと、幸次も少しだけ笑った。
② 音楽大学での日常
翌日。
美紅と結花は大学の授業を終え、キャンパスを歩いていた。
「最近、幸次さんとの距離、ちょっと変わったよね?」
結花が何気なく言うと、美紅は少し驚いたように彼女を見た。
「え? そうかな……?」
「うん。なんとなくだけど、前より話しやすそうに見えるっていうか。」
「……まあ、少しはね。」
美紅は曖昧に笑った。
自分の気持ちをはっきりと自覚してから、幸次との関係をどうすればいいのか悩んでいた。
今まで通りに接したいけれど、どうしても意識してしまう。
「美紅って、恋してるときってどんな感じになるの?」
突然の結花の問いに、美紅は思わず足を止めた。
「え?」
「いや、なんとなく気になって。美紅が本気で誰かを好きになったら、どうなるのかなーって。」
「……どうだろう。」
美紅は、ふと幸次のことを思い浮かべる。
「たぶん……その人のことばっかり考えちゃうんじゃないかな。」
「ふーん。そっか。」
結花は微笑みながら、美紅の顔をじっと見つめた。
「まあ、美紅がそうなるのは、まだまだ先かもね!」
「え、どういう意味?」
「なんとなく!」
結花は笑いながら歩き出す。
美紅は、彼女の背中を見つめながら、小さくため息をついた。
③ 夕暮れの教会にて
その日の夕方。
美紅が教会に顔を出すと、幸次が庭のベンチに座っていた。
彼は本を読んでいたが、美紅の気配に気づくと顔を上げた。
「こんばんは。」
「こんばんは。何を読んでるの?」
「詩集だよ。」
幸次は静かに本を閉じた。
「詩?」
「秋は、詩が似合う季節だと思ってね。」
「へえ……。幸次さんって、詩を読むんだ。」
「昔はあまり読まなかったけど、最近は好きになったよ。」
「どうして?」
美紅が尋ねると、幸次は少し考えた後、穏やかに言った。
「詩は、言葉が短いのに、たくさんの感情を詰め込めるから。」
「……幸次さんらしいね。」
美紅は微笑みながら、ベンチの隣に座った。
秋の風が、そっと吹き抜ける。
「……秋って、少し切ないね。」
美紅がぽつりと言うと、幸次は少し目を細めた。
「そうだな。でも、それが悪いわけじゃない。」
美紅は、幸次の横顔をそっと見つめた。
(この距離が、心地いい。)
そう思いながら、夕焼けに染まる空を見上げた。