第42話 想いを隠すということ
① 変わらないはずの日常
翌朝。
隼人は、いつも通りの時間に起き、教会の仕事をこなしていた。
何も変わらない——そう思いたかった。
(結花のことが好きだと認めても、何かが変わるわけじゃない)
(俺は、これまで通りでいればいい)
だから、いつも通りに接すれば——
「隼人さん! おはようございます!」
結花の元気な声が響く。
その瞬間、隼人の心臓がわずかに跳ねた。
だが、結花はそんなことに気づかず、笑顔のまま近づいてくる。
「今日も手伝いに来ました!」
「……そうか。助かるよ」
努めて平静を装いながら、隼人は作業を始めた。
(今まで通りだ。変わらない)
しかし——
(本当に、そうか?)
少しでも気を緩めたら、彼女を目で追ってしまいそうだった。
今まで意識しなかった小さな仕草や表情が、やけに胸に残る。
「……っ」
隼人は、無意識に手を強く握りしめた。
(これ以上、考えるな)
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② 隼人の微妙な距離感
作業を進めるうちに、結花が少しだけ不思議そうな顔をした。
「隼人さん、なんだか……ちょっと距離を置いてません?」
「そんなことはないよ」
「うーん……そうですか?」
結花は首をかしげた。
隼人は、目を合わせないようにしながら答える。
「……少し考えごとをしていただけだ」
「そっか。何か悩みがあるなら、聞きますよ?」
結花は屈託のない笑顔でそう言った。
その笑顔に、隼人の胸がまた苦しくなる。
(こんなにまっすぐな子に、俺は何を求めているんだ)
(……この感情は、持つべきじゃない)
「いや、大したことではないよ」
できる限り、穏やかにそう言った。
結花は納得したように「ならいいです!」と笑う。
隼人は、そんな彼女を横目で見ながら——
(この気持ちは、隠し通さなければならない)
そう強く思った。
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③ 朔の鋭い観察眼
夕方。
隼人が片付けをしていると、朔がやってきた。
「なあ、隼人」
「……何?」
「最近、ちょっと態度が変わったんじゃないか?」
隼人の手が止まる。
「……どういう意味だ?」
「結花に対して、前より意識してるように見える」
一瞬だけ、心臓が跳ねる。
「そんなことはないよ」
「へえ?」
朔はじっと隼人を見つめたあと、ふっと笑った。
「まあ、隠そうとしてるのはわかるけどな」
「……」
「でもさ、無理に隠そうとするほど、態度に出るもんだよ」
「……気のせいだと思うけど」
隼人は努めて穏やかに言った。
朔は、それ以上は追及せず、肩をすくめる。
「ま、好きにすればいいさ。ただ、あんまり無理するなよ」
そう言い残し、去っていった。
隼人は、深く息をつく。
(……俺は、無理をしているのか?)
結花と普通に接することが、こんなに難しくなるとは思っていなかった。
しかし、この気持ちを表に出すわけにはいかない。
(このまま、何もなかったことにすればいい)
(そうすれば——)
だが、自分にそう言い聞かせても、胸の奥のざわつきは消えなかった。