第39話 認めたくない感情
(隼人の中で、確かな感情が生まれる)
① 結花の無邪気さと、隼人の戸惑い
翌日、教会の仕事を終えた隼人は、庭の掃除をしていた。
「隼人さん、お疲れさまです!」
結花が元気よく近づいてくる。
「結花。今日は何か手伝いに?」
「はい! ちょうど時間があったので!」
隼人は小さく頷いた。
「じゃあ、そこの落ち葉を集めてもらえるか?」
「了解です!」
結花は、にこにこと笑いながら作業を始めた。
その無邪気な姿を見て、隼人は少しだけ息をついた。
(……何も変わらないはずなのに)
今までもこうして一緒にいることはあった。
結花は変わらず明るく、まっすぐで、温かい。
変わったのは——自分の方だ。
(なんで、こんなにも気になるんだ)
自分の中に生まれた感情を、隼人は持て余していた。
② ふとした出来事での気づき
「わぁっ!」
突然、結花がバランスを崩し、倒れかけた。
「あっ、危ない——!」
隼人は、反射的に彼女の腕を掴んだ。
「……っ」
距離が近い。
結花は驚いた顔のまま、隼人を見上げていた。
隼人は、その瞳に息をのむ。
(……近い)
こんな風に、間近で夢奈の顔を見たのは初めてだった。
「……大丈夫か?」
「あ、はい……!」
結花が照れ笑いを浮かべる。
その表情がやけに胸に残った。
隼人は、そっと手を離した。
だが、掴んだ感触はまだ手のひらに残っている。
(なんだ、この感覚は……)
ずっと知っているはずの夢奈が、今までと違って見える。
その事実が、隼人を戸惑わせた。
③ 認めたくない感情
「隼人さん、本当にありがとうございます! ちょっと転びそうになっちゃって……」
結花は何事もなかったように笑う。
隼人は、そんな彼女を見つめながら、胸の内を整理しようとする。
(……今のは、ただの反射的な行動だ)
(大したことじゃない)
けれど——
「隼人さん?」
結花の声に、はっと我に返る。
「……いや、何でもない」
(俺は、何を考えているんだ)
結花がいつものように話し続ける。
隼人は、普段通りに相槌を打ちながらも、自分の気持ちを振り払おうとしていた。
(こんな感情、持つべきじゃない)
(俺は、そんなことを考える立場じゃない)
だが、その思いとは裏腹に——
結花の笑顔が、いつも以上に眩しく見えた。




