表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/167

第37話 揺らぎ始める心

(隼人の中で、結花の存在が特別なものになり始める)


① いつもと同じはずなのに


翌日。


隼人は、教会の事務作業を淡々とこなしていた。


書類整理、ボランティアのスケジュール調整、教会の掃除。


何気ない、いつも通りの日常。


それなのに——


(どうしてだろう)


昨日の結花との会話が、ずっと頭の片隅に残っていた。


「隼人さん自身は、何をしたいの?」


考えたこともなかった。


考える必要もなかった。


自分は、家族を支える側の人間で、誰かに守られる立場ではない。


……そう思っていたのに。


(俺は、本当にこのままでいいのか?)


小さな疑問が、ふと心を揺らした。


② 結花の存在の大きさ


「隼人さん、手伝いますよ!」


明るい声がして、顔を上げると、結花が立っていた。


「無理しなくていい。もうすぐ終わるよ」


「えー、でも、一緒にやった方が早いですよ!」


そう言って、結花は隼人の制止も聞かずに荷物を運び始める。


「重いぞ?」


「大丈夫です! こう見えて力には自信ありますから!」


楽しそうに笑う結花を見て、隼人はふっと力が抜けた。


(本当に、いつも元気だな)


結花といると、気を使う必要がない。


変に取り繕うこともなく、ただ自然でいられる。


そして、それが——心地よかった。


③ 結花を「特別」に感じる瞬間


「よし、終わりました!」


荷物を片付け終えた結花が、満足げに息をついた。


隼人は軽く汗を拭きながら、彼女を見た。


「……結花」


「はい?」


「君は、いつも楽しそうにしてるよね」


「え?」


「……どうして、そんなに明るくいられるんだろう」


結花は一瞬驚いた顔をしたあと、ふわっと笑った。


「うーん……なんででしょう?」


「……」


「多分、私、誰かが笑っているのを見るのが好きなんです」


「……そうなんだ」


「はい! だから、隼人さんももっと笑ったらいいのになって思います」


結花が無邪気に笑う。


その笑顔を見た瞬間——


隼人は、心臓がわずかに跳ねるのを感じた。


(……なんだ、今の)


いつも見ているはずの笑顔。


なのに、今日の笑顔は、どこか違って見えた。


(……いや、違うのは俺の方かもしれない)


「……俺が、もっと笑う?」


「はい!」


「簡単なことじゃないな」


「そんなことないですよ! 隼人さん、笑うともっと素敵なのに」


結花が冗談めかして言う。


「……」


隼人は、一瞬言葉に詰まった。


(俺は、君を……どう思ってるんだ?)


初めて、そんな疑問が浮かんだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ