第35話 兄・隆一との確執
(家族を守るために、兄とは違う道を選んだ隼人)
① 兄・隆一の反抗と家出
隼人が14歳の時、母・涼子が亡くなった。
その頃、兄・隆一は18歳で家を出て行った。
「俺はこんな家、うんざりなんだよ」
そう言い放ち、父・光一と激しく言い争った後、家を飛び出していった。
それ以来、隆一はほとんど家に帰らなかった。
隼人は幼いながらに思った。
(兄さんは……どうしてこんなに家族を拒絶するんだろう)
(お母さんが亡くなって、一番悲しいのは俺たちなのに……)
父と兄は、まるで水と油のように衝突していた。
そのたびに、隼人は2人の間で板挟みになった。
——だからこそ、兄のようにはなりたくない、と思った。
家族を捨てるのではなく、守る側になりたかった。
それが、隼人の選んだ道だった。
② 兄が家族を捨てた理由
隆一は、家を出てから連絡を寄越さなかった。
「……お兄さんとは、それ以来会ってないの?」
結花が静かに尋ねた。
「いや……5年前に、一度だけ会った」
「え?」
隼人は、少しだけ苦い表情を浮かべた。
「兄さんは、俺たちに何も言わずに結婚して、子どももいたんだ」
「ええっ!? そんな大事なこと、どうして隠してたの?」
「わからない……でも、兄さんにとっては、俺たちとは関わりたくなかったのかもしれない」
結花は黙った。
家族と距離を置いた隆一。
その兄とは違い、隼人は「家族を捨てない」ことを選んだ。
それが、彼の人生の軸になった。
「……結花」
隼人はふと、結花の方を見た。
「俺は、兄さんみたいにはなりたくなかったんだ」
「だから……恋愛とか、そういうことよりも、家族を守ることを優先して生きてきた」
その言葉に、結花の胸が少しだけ締めつけられるような感覚を覚えた。
(——それって、隼人さんが自分自身の幸せを後回しにしてるってことなんじゃ……)
結花は、隼人の横顔をそっと見つめた。




