第34話 隼人の過去(第一章)
(何気ない会話から、過去の記憶へ)
① 何気ない会話の中で
「ねえ、隼人さんってさ、恋愛とかしたことあるの?」
結花が何気なく聞いた。
夏の夕暮れ、2人は教会の片付けを終えた後、並んで歩いていた。
「……急にどうした?」
「いやー、気になっただけ!」
隼人は少し考え込んだ後、静かに微笑んだ。
「あるにはあるよ」
「えっ、本当に!? どんな人?」
「……普通に、いい人だったよ」
「ふーん……じゃあ、なんで別れたの?」
隼人は立ち止まった。
「……家族のことを考えると、あまり恋愛とかに時間を使えなかったんだ」
「家族……?」
結花は不思議そうに首をかしげる。
(そういえば……隼人さんの家族の話、あまり聞いたことがないかも)
「……話したこと、なかったか?」
「うん、ない」
「そうか……」
隼人は、少し遠くを見つめるような目をした。
「俺は、母さんが早くに亡くなって、兄貴も家を出て行ったから……家族を守ることが、俺の一番の優先事項だったんだよ」
「……」
結花は静かに彼の言葉を待った。
「結花、少し時間あるか?」
「うん、もちろん」
隼人は、ふと懐かしそうな顔をして、ゆっくりと語り始めた——。
② 母・涼子との記憶
隼人の母、永瀬涼子は、とても優しい人だった。
「隼人、おかえりなさい」
学校から帰ると、母はいつも笑顔で迎えてくれた。
病弱だったけれど、家族のために一生懸命動いていた。
「お母さん、無理しないでね」
幼い隼人がそう言うと、涼子は優しく微笑んだ。
「大丈夫よ。あなたたちが幸せなら、それが一番だから」
母はいつも家族のことばかり考えていた。
父・光一のことも、兄・隆一のことも、そして自分のことも——。
だけど、隼人が14歳の春、母は亡くなった。
「……お母さん……?」
母が静かに目を閉じている姿を見たとき、隼人は何も言えなかった。
あまりにも突然で、あまりにも静かだった。
(母さんは、最後まで俺たちのことばかり考えていた……)
そのとき、隼人は強く思った。
(俺がこの家族を守らなきゃいけない——)
その想いが、彼の心に深く刻まれた。




