第33話 気づいてしまった気持ち
(美紅の好意が、より明確なものになっていく)
① 朔の視点:気づいてしまった違和感
「最近、何か変じゃないか?」
ランチの帰り道、朔はふと考えていた。
美紅は、今まで通りのように見える。
でも、時々、ふとした瞬間に幸次を見つめる目が——違う。
「……やっぱりな」
この感じ、よく知っている。
人が誰かを好きになる瞬間を、何度も見てきたから。
(美紅は、幸次さんに惹かれてる)
でも、幸次の方も、何かが変わっている気がする。
本人は気づいていないかもしれないけど、時折見せる微妙な表情の変化——
まるで、美紅をどこか遠くの誰かと重ねているみたいな。
「……めんどくせぇことになりそうだな」
朔は軽く舌打ちしながら、視線の先の美紅と幸次を見た。
(だけど、今はまだ……見守っておくか)
② 美紅の視点:避けられない感情
「じゃあ、今日はここまで!」
隼人の声で、ボランティアの作業が終わった。
「ふー! 今日も頑張った!」
結花が腕を伸ばしながら笑う。
美紅は、ふと幸次の方を見た。
(幸次さん……)
気づけば、彼を目で追ってしまう自分がいる。
「……なんでこんなに気になるんだろう」
胸の奥が、少しだけ苦しくなる。
それは、単なる憧れでも、尊敬でもない。
もっと、深いところから湧き上がる感情——
(……やっぱり、私は幸次さんが好きなんだ)
それを認めた瞬間、体が少し震えた。
③ 幸次とのささいなやり取り
「美紅、帰り道、一緒に歩くか?」
「……え?」
思わず驚いて顔を上げると、幸次が少し面倒くさそうに立っていた。
「別に、送るわけじゃねぇよ。ただ、方向が同じなだけだ」
「……あ、はい!」
そう言いながらも、美紅の心臓は跳ねていた。
(幸次さんと2人きり……)
歩き出したが、なぜか胸がざわつく。
(さっきまで、普通に話せてたのに……)
意識すればするほど、どう振る舞えばいいのかわからなくなる。
「……ん?」
「え?」
ふと、幸次が立ち止まる。
美紅もつられて足を止めた。
「……千日紅の花、まだ咲いてるな」
道端に咲く小さな千日紅を見つめる幸次の横顔を、美紅は見つめた。
「……あの日、もらったやつ、ちゃんと飾ってるぞ」
「えっ……」
思わず美紅は息をのんだ。
「……あ、いや。なんとなくな」
幸次はそっけなく言うと、歩き出した。
でも、美紅はその後ろ姿を追いながら、胸が熱くなるのを感じていた。
(幸次さん……)
ますます、この気持ちが止まらなくなってしまう——。




