第32話 変わりゆく日常(後半)
(誕生日の後、日常に戻る中で生まれる変化)
③ 美紅と美恵子の姿が重なる瞬間
——揺れる映像の中に、過去の記憶が滲む。
幸次の視界に映ったのは、美紅ではなく、美恵子の姿だった。
「……え?」
一瞬、脳が混乱する。
白く輝く肌、凛とした瞳。
どこか寂しげで、でも力強い美しさ。
美恵子……?
でも——すぐに現実に引き戻される。
目の前にいるのは、美恵子ではなく、美紅だ。
(……なんで、こんなことを……)
幸次は、心の中で舌打ちした。
美恵子のことは、とうに過去の話だ。
もう思い出すこともなかったはずなのに——なぜ、美紅を見た瞬間に思い出した?
「……幸次さん?」
美紅の声が現実へと引き戻した。
「……いや、なんでもねぇ」
「そうですか?」
美紅は首をかしげながらも、それ以上は追及しなかった。
だけど、幸次の中では明らかに“何か”が変わり始めていた。
——美紅を見るたび、ふと美恵子の姿が重なってしまう。
それが、ただの記憶の残像なのか。
それとも——別の意味を持つものなのか。
それは、幸次自身にもわからなかった。
④ それぞれの変化
「さて、そろそろ昼休憩にしようか」
隼人の声で、一同は作業の手を止めた。
「やったー! もうお腹ペコペコ!」
結花が元気よく叫び、朔は「お前はいつも食うことばっかりだな」と呆れたように言う。
「じゃあ、どこかでランチしようか?」
「うん! いいね!」
「幸次さんも行きますよね?」
美紅が自然にそう言うと、幸次は少しだけ考えたあと、
「……まあ、付き合うか」
と短く答えた。
(あれ?)
美紅は、一瞬違和感を覚えた。
いつもなら、幸次さんはあまりこういう誘いには乗らないのに。
(……気のせい、かな?)
でも——
幸次の中でも、何かが揺らぎ始めている。
それに気づいたのは、美紅だけではなかった。




