第30話 幸次の誕生日
(8月14日、4人が仕掛けるサプライズ)
① サプライズの準備
「さて、今日は作戦決行日だな」
朔が腕を組んで言うと、結花がワクワクした表情で頷いた。
「うん! 絶対に幸次さんを驚かせようね!」
「でも、幸次さんってこういうの興味なさそうだよね……」
美紅が少し不安そうに呟くと、隼人が穏やかに微笑んだ。
「まあ、確かにね。でも、大事なのは気持ちだから」
「そうそう! 気持ちが伝わればいいんだよ!」
結花が元気よく言いながら、テーブルに並べたプレゼントの袋を確認する。
「みんな、プレゼントもちゃんと用意した?」
「もちろん」
朔が紙袋を軽く持ち上げる。
「俺はシンプルに、幸次さんが好きそうな革のブックカバーを選んだ」
「へえ、渋いね!」
「幸次さん、本たくさん読むしな」
「私は、ちょっと良いワインにしたよ」
隼人がそっとワインボトルを見せる。
「大人っぽい~! さすが隼人さん!」
「幸次さん、お酒はそこそこ飲むし、落ち着いた時間を楽しめるものの方がいいかなって」
「私は、ハンドメイドの革の栞にした!」
結花が嬉しそうに見せたのは、小さな栞だった。
「本を読むときに使えるし、何より手作り感がいいでしょ?」
「結花らしいね」
美紅が微笑む。
「で、美紅は?」
朔が尋ねると、美紅はそっと自分の袋を開けた。
「私は……これ」
そこには、鮮やかな千日紅のブーケ。
赤や紫、白の小さな花が、可愛らしくも凛とした雰囲気を醸し出していた。
「おお、花か」
「……幸次さんの誕生花なんだよ。千日紅の花言葉って『不朽』『永遠の恋』『不死』なんだって」
「へえ……なんか、幸次さんに合ってる気がする」
「うん。だから、これを贈ろうと思って」
美紅は静かに微笑んだ。
② サプライズパーティー開始
その夜、教会の一室に幸次を呼び出した。
「……何だよ、こんな夜に」
幸次が訝しげな顔で扉を開けると——
「誕生日おめでとう!!」
クラッカーの音と共に、4人の歓声が響いた。
幸次は、一瞬驚いたように目を見開いた。
「……は?」
「ふふ、サプライズ成功だね!」
結花が満面の笑みで言うと、朔が腕を組んで得意げに頷く。
「ま、驚いただろ?」
「……別に」
幸次は苦笑しながら部屋を見渡した。
飾りつけられた部屋、テーブルには手作りの料理やケーキが並んでいる。
「いや、マジで……俺の誕生日なんて、気にするようなもんじゃねぇだろ」
「そんなことないよ! 大事な日じゃん!」
結花がむくれる。
「誕生日は、祝うもんだろ?」
朔が当然のように言うと、隼人も優しく微笑んだ。
「幸次さんが気にしなくても、僕たちは祝いたいんです」
「……」
幸次は少しだけ目を伏せた。
(……こいつら、本当に……)
「……ま、ありがとうな」
その小さな呟きに、4人は嬉しそうに笑った。
③ それぞれのプレゼント
「じゃあ、プレゼントタイムいきましょう!」
結花が元気よく言うと、まずは朔がプレゼントを差し出した。
「ほら、これ」
「なんだ?」
「革のブックカバー。お前、読書ばっかしてるし、ボロいの使ってたからな」
「……確かに、最近ボロボロだったな」
幸次は苦笑しながらブックカバーを手に取った。
「サンキュ」
次に、隼人がワインを渡した。
「これは?」
「ワインです。幸次さん、たまに飲みますよね?」
「まあな……良いのか、こんな高そうなやつ」
「誕生日なので」
「……ま、ありがたくもらっとく」
そして、結花が栞を渡した。
「私のは、これ!」
「……手作り?」
「うん! 私のセンスが光ってるでしょ?」
「……まあ、悪くねぇな」
最後に、美紅が千日紅のブーケを差し出した。
「……これ、俺に?」
幸次は少し驚いたように目を見た。
「うん。幸次さんの誕生花なんだって」
「……へえ」
幸次は、しばらく花を見つめていた。
「花言葉も、なんか……幸次さんっぽくて」
「……」
「『不朽』『永遠の恋』『不死』——」
そう言った瞬間、幸次の指がぴくりと動いた。
ほんの一瞬だった。
でも、美紅は確かに見た。
「……俺っぽい、ねぇ」
幸次は小さく笑うと、そっと花束を抱えた。
「悪くねぇな」
「ふふ、よかった」
美紅が微笑むと、幸次は目を伏せたまま小さく息を吐いた。
(——俺っぽい、か)
(……それが、嬉しいと思った俺は、もう戻れねぇのかもな)