第26話 17歳、スキャンダルと炎上
(理想の女優像の崩壊、初めての拒絶と決意)
① 彼の気持ち、私の拒絶
「望月さん……俺、本気なんだ」
そう言われたとき、私はひどく困惑した。
彼——**真宮翔**は、今最も人気のある男性アイドルだった。
ドラマで共演したとき、彼は私に優しく接してくれた。
周囲のスタッフにも気遣いを見せる、誠実な人だった。
「……私は、そういうつもりじゃないの」
「でも、君といると落ち着く。美紅ちゃんも、俺といると楽しいだろ?」
「……」
楽しい、か。
確かに、彼は話しやすいし、一緒にいると笑うこともあった。
でも、それは「恋愛」ではなかった。
私は、誰かを好きになる余裕なんて持っていなかった。
「ごめんなさい」
彼の気持ちを、私は受け取ることができなかった。
——それなのに、スキャンダルは突然だった。
② 突然の熱愛報道
「望月美紅、人気アイドル真宮翔と真剣交際!」
見出しを見た瞬間、頭が真っ白になった。
「……これ、何?」
私は震える手でスマホを握りしめる。
SNSではすでに炎上が始まっていた。
《あんな清楚キャラだったのに、裏では恋愛してたんだね》
《美紅ちゃんのファンだったのに、ショック……》
《真宮翔にすり寄ったのか?》
違う。
私は何もしていない。
恋愛なんてしていない。
「でも、もう……どうしようもないんだよね」
この世界では、“噂”は“真実”になる。
事実なんて、どうでもいい。
人は、自分が信じたいものを信じる。
③ 夢が壊れる音
「美紅……あなた、説明しなさい!」
母の美花子が、怒りに満ちた声で叫ぶ。
「なんでこんな記事が出るの!? なんであなたはこんなことで騒がれなきゃいけないの!?」
「……私が、一番聞きたいよ」
「ダメよ、美紅……! あなたはこんなことでイメージを壊していい人間じゃないの!」
母は、私を叱るのではなく、世間に対して必死だった。
私のイメージが崩れることを、恐れていた。
「もう……限界だよ」
私は、小さな声で呟いた。
「……え?」
「もう、やめる」
「何を言ってるの? まさか、女優を……?」
「うん」
母は、一瞬理解ができなかったような顔をした。
「冗談よね?」
「冗談じゃない」
「ダメよ!! あなたは、私の——」
「“私の” じゃない!」
母の言葉を、私は初めて遮った。
「私は、お母さんのために生きてるんじゃない……!」
初めて、母の期待を拒絶した。
その瞬間、私の世界が音を立てて崩れた。
④ 静かな終わりの始まり
「……好きにしなさい」
母は、すべての感情を失ったように言った。
私は、母に背を向けた。
これで、やっと解放される。
でも、私は知らなかった。
この選択が、母を絶望させることになるなんて——。