第24話 少女時代
(美花子の期待のもと、子役としてのスタート)
① 幼い頃の望月美紅
「美紅、笑って! もっと楽しそうに!」
母・美花子の明るい声が響く。
カメラの前でポーズを取る美紅は、ぎこちなく笑顔を作った。
——子どもの頃、私は普通の子どもではなかった。
気づけば、母の希望で芸能活動を始めていた。
私の夢ではなく、母の夢。
だけど、当時の私はそんなことを深く考えることもなく、ただ母が喜ぶ顔が見たくて言われるままに演技をしていた。
「すごいわ、美紅! あなた、本当にかわいい!」
オーディションに合格した日、美花子は満面の笑みで私を抱きしめた。
そのとき、母の温もりが心地よくて、私は嬉しかった。
(お母さんが喜んでくれるなら、それでいいや)
それが、子役としてのキャリアの始まりだった。
② 才能の開花と周囲の称賛
「美紅ちゃん、すごいね! セリフ、一発で覚えちゃうんだ!」
現場のスタッフや監督が口々に褒める。
私は何も意識せずに演技をしていただけなのに、大人たちは私を「天才」と呼んだ。
——天性の演技力、表情の作り方、セリフの言い回し。
どれも自然と身についていた。
「美紅、あなたは特別よ」
母の囁きが、私の心にしみ込んでいく。
——“特別”
その言葉が、子どもだった私を強く支配し始めていた。
③ 母の期待と、幼い違和感
「もっと、もっと美紅が輝けるように、頑張ろうね」
母は私に女優としての未来を見ていた。
私はただ、母の期待に応えたい一心で、演技を続けた。
——でも、時々思っていた。
(私は、普通の子どもみたいに遊んだりできないのかな)
同年代の子たちが公園で遊んでいるのを横目に、私はレッスンや撮影に追われていた。
母は、私が普通の子どもであることを許してはくれなかった。
「あなたは、他の子とは違うのよ」
その言葉に、私はただ「うん」と頷いた。
——私は、違うんだ。特別だから。
そう自分に言い聞かせながらも、どこか心の奥で、ほんの少しだけ寂しさを感じていた。