第23話 曇り空の下、ふとした会話
(結花との何気ない会話 → 美紅の回想へ)
① 結花の無邪気な質問
「ねえ、美紅ってさ、昔どんな子どもだったの?」
結花の声が、静かなカフェの空間に響いた。
午後の曇り空の下、2人はお気に入りのカフェでお茶をしていた。
「……昔?」
美紅はカップを手に取りながら、ゆっくりと結花を見た。
「うん! 私さ、小さい頃から変わらないってよく言われるんだけど、美紅はどうだったのかなーって」
結花は軽くカフェラテをかき混ぜながら、無邪気に言う。
「美紅ってほら、子役やってたじゃん? どんな感じだったの?」
「……そうだね」
美紅は曖昧に微笑んだ。
「どんな感じ……だったかな」
「え、覚えてないの?」
「ううん。覚えてるよ」
美紅はゆっくりとカップを置く。
目の前にはいつもと変わらない結花の笑顔がある。
だけど——思い出すと、胸が少しだけ痛んだ。
② 遠い記憶の扉が開く
「私は、最初は女優になるつもりなんてなかったんだよ」
「えっ、そうなの?」
「うん。お母さんの希望で、オーディションを受けたの」
「そっか……」
結花は意外そうな顔をした。
美紅はカップの縁を指でなぞりながら、遠い記憶の扉を開く。
——カメラのフラッシュの光。
——大人たちの拍手と、母の期待に満ちた笑顔。
——「あなたは特別よ」と囁く声。
(……私は、本当に特別だったのかな)
ふと、胸の奥がずきりと痛んだ。
「ねえ、美紅?」
「……ごめん、ちょっと昔のこと、思い出してた」
「そっか……」
結花はそれ以上聞かず、そっと微笑んだ。
美紅は息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。
——あの頃の私は、何を考えていたんだっけ。
思い出すたび、胸が苦しくなる。
それでも、目を背けることはできなかった。
静かに目を閉じる。
遠い記憶へと、意識が沈んでいった——。




