第21話 帰り道、気づいてしまったこと
(車内の賑やかさの中、朔だけが静かに美紅の変化を感じる)
① 賑やかな車内
「楽しかったねー!!!」
結花が後部座席で両手を広げながら叫んだ。
「本当にな」
隼人が静かに微笑む。
「今年一番夏らしいことした気がする!」
「それは間違いないな」
朔はハンドルを握りながら、笑う結花をバックミラー越しに見た。
助手席では、美紅がぼんやりと窓の外を眺めている。
「疲れた?」
朔がふと聞くと、美紅はゆっくりとこちらを振り向いた。
「ううん。なんか、考えごとしてただけ」
「へぇ?」
「……なんか、あっという間だったなって」
「まあ、遊んでると時間なんてすぐ過ぎるからな」
美紅は朔の言葉に小さく頷いたが、その表情はどこか柔らかく、そして、少し切なげだった。
(……これは、気づいちまったな)
朔は、ハンドルを握る手に力を込めた。
② 気づいてしまったこと
美紅は、幸次に恋をしている。
それが、あまりにも明確にわかった。
——夕陽を見つめる美紅の横顔。
——彼女が静かに「幸次さん」と呼んだときの声音。
——帰り道、何気なく幸次の方を見つめる仕草。
(人が恋に落ちる姿は、どうしてこんなにわかりやすいんだろう)
賑やかな車内の中で、朔だけが静かにそう思っていた。
「幸次さん、海って久しぶりだった?」
結花が後部座席から声をかけた。
「……ああ、しばらく行ってなかったな」
「でも、なんか似合ってましたね」
「そうか?」
幸次は淡々と答えたが、美紅はその会話を聞いて、小さく微笑んでいた。
その表情を見て、朔は無意識に舌打ちしそうになった。
(俺、なんでこんなにイラついてんだ?)
自分でも理由はわかっている。
でも、それを口に出すつもりはない。
(……めんどくせぇな)
何も考えないようにしながら、ただ静かにアクセルを踏んだ。