第19話 海での時間
(海で遊ぶ/浜辺でバーベキュー)
① 夏の海、弾ける笑顔
「よーし! 着いたー!!」
結花が歓声を上げながら、勢いよくサンダルを脱いで砂浜へ駆け出した。
「ちょっと、まだ荷物運ぶのが先でしょ!」
美紅が笑いながら制止しようとするが、結花はすでに海の方へ走っていく。
「まったく……」
美紅はため息をつきながらも、どこか楽しそうだ。
「ったく、元気すぎんだろ」
朔は荷物を車から降ろしながら、結花の後ろ姿を見送る。
「まあ、せっかく来たんだから楽しんだ方がいいよ」
隼人がクーラーボックスを抱えながら微笑む。
「それにしても暑いな……」
幸次が小さく呟くと、美紅がすぐに冷えたペットボトルを差し出した。
「北村さん、これどうぞ」
「……ああ」
幸次は少しだけ目を伏せながら、静かに受け取る。
美紅は特に気にする様子もなく、「じゃあ、私も日焼け止め塗らなきゃ!」と準備を始める。
朔はそのやりとりを見て、ふと考える。
(最近、美紅と北村って話すこと多くなったよな)
美紅は誰とでも分け隔てなく接する。
でも、幸次に対する態度は、どこか違う気がした。
(……気にすんな、俺)
軽く息を吐き出し、朔はTシャツを脱いで海へ向かった。
② 思い切り遊ぶ時間
「よーし! 海に入るぞー!!」
結花が先陣を切って海へ飛び込む。
「うわっ、冷たっ!」
美紅が足をつけて、思わず身震いする。
「慣れれば気持ちいいよ!」
「本当かなぁ……」
「ほら、美紅ちゃんも!」
そう言って、結花が思い切り水をかける。
「きゃっ! ちょっと!」
美紅が笑いながら逃げるが、すぐに結花に捕まってしまう。
「うわ、濡れた……!」
「最初から入っちゃえばいいのに!」
「もう!」
そんな2人の様子を、朔は少し離れたところから眺めていた。
(楽しそうだな)
少し前まで、梅雨空の下でしっとりと過ごしていたのに、今は夏の光の下で無邪気に笑っている。
「朔さーん! 何ぼーっとしてるの!」
「おい、やめろよ……」
美紅が突然、朔に向かって水をかける。
「こうなったらもう巻き込まれるしかないですね!」
隼人も参戦し、みんなで水のかけ合いが始まった。
「ったく、こういうのガキかよ……!」
そう言いながらも、朔はどこか楽しそうだった。
③ 浜辺でのバーベキュー
海で遊んだ後、みんなは浜辺に戻り、バーベキューの準備を始めた。
「火、ついた?」
「おう、バッチリだ」
朔が火起こしを担当し、隼人が食材を並べる。
「じゃあ、お肉焼いていきますね!」
美紅がエプロンをつけ、手際よく肉を焼き始める。
「おお、美紅ちゃん、慣れてるね!」
「昔、よくバーベキューしたから」
「へぇ、意外!」
結花が驚くと、隼人が「確かに、美紅さんって料理上手だよね」と同意する。
「そんなことないよ」
「いや、マジでうまそう」
朔も肉の焼ける香りを嗅ぎながら言う。
「ほら、焼けたよ」
美紅が一番に焼けた肉を差し出した。
その手を伸ばしたのは、偶然にも朔と幸次、同時だった。
一瞬、2人の手が止まる。
「……あ」
美紅が戸惑う。
朔は何も言わず、手を引っ込めた。
「……お前、先食えよ」
「……ああ」
幸次は黙って肉を受け取り、口に運んだ。
(なんだ、この妙な空気)
結花は気づかず、「美味しい!」とはしゃいでいるが、朔は微かな違和感を感じていた。
美紅も、どこか考え込んでいるように見えた。
(第十八章 完/次章へ続く)




