第17話 雨上がりの静けさ
(雨が止んだ後/それぞれが抱える気持ち)
① 雨上がりの教会
「……止んだね」
夕方、結花が窓の外を見て呟いた。
どしゃ降りだった雨は、いつの間にか止んでいた。
雲の切れ間から夕陽が差し込み、濡れた地面を優しく照らしている。
「やっと外に出られるな」
朔が立ち上がり、背伸びをする。
「もうちょっと降るかと思ったけど、意外と早く上がったね」
美紅が傘を持って玄関へ向かう。
「せっかくだし、少し外を歩いてみようか」
隼人が提案すると、結花が「さんせーい!」と元気に手を上げた。
「じゃあ、ちょっと散歩してくる?」
「うん!」
5人は、ゆっくりと教会の外へと出た。
② 雨の匂いと、微かな違和感
外に出ると、ひんやりとした空気と、雨上がり特有の匂いが漂っていた。
「空気が澄んでるね」
美紅が小さく微笑む。
「雨上がりって、なんか落ち着くよな」
朔が何気なく言う。
「さっきまであんなに降ってたのに、嘘みたいですね」
美紅が空を見上げると、まだ雲は残っているものの、少しずつ夕焼けが広がっていた。
朔は、そんな美紅の横顔をふと見つめた。
(……やっぱ、なんかこいつに惹かれてるんだよな、俺)
その想いを表に出すつもりはない。
でも、少しずつ確信に変わっていく自分がいた。
(……まあ、いいか。今は考えない)
気づかれないように視線をそらし、何事もなかったように歩き出す。
③ 幸次の中で生まれた感情
少し後ろを歩いていた幸次は、美紅の後ろ姿を静かに見つめていた。
(……やっぱり、似てる)
髪のなびき方、歩くときの仕草。
さっき、雨に濡れた紫陽花を見て微笑んでいた顔も——美恵子と重なる。
(美恵子なら、この景色を見て、なんて言っただろう)
そんなことを考えている自分に気づき、そっと目を伏せた。
(……俺は、美紅に何を求めてるんだ?)
彼女を、美恵子の代わりにしているわけではない。
それはわかっている。
でも、惹かれているのも確かだった。
美紅がふと振り返る。
「北村さん?」
「……いや」
「どうしました?」
「別に」
幸次は淡々と答える。
それ以上、何も聞かずに美紅は微笑み、また前を向いた。
(……その無邪気な感じも、昔と似てるんだよな)
幸次は、少しだけ口元をほころばせた。
④ 朔の微かな苛立ち
美紅が幸次に声をかけた瞬間、朔の胸の奥に小さな違和感が生まれた。
(……また、気にしてんのか、俺)
最近、気づけば美紅と幸次のやりとりが目に入る。
そして、そのたびに心がざわつく。
(なんでだろ……)
理由は、もうわかっている。
でも、それを認めたくなくて、いつもの調子で結花に話しかける。
「おい、そろそろ帰るぞ」
「えー、もうちょっと歩きたい!」
「帰り道で歩けるだろ」
「むぅ……じゃあ、しょうがない!」
変わらない日常。
でも、ふとした瞬間に感じる違和感。
それが、これからどう変わっていくのか——誰もまだ、知らなかった。
(第十六章 完)




