第16話 雨音に閉じ込められて
(大雨の日/教会で過ごす5人の時間、それぞれの心の揺れ)
① 降り止まない雨
「……うわ、外やばくない?」
結花が窓の外を見て、驚いたように声を上げた。
朝から降り続いていた雨は、昼を過ぎてさらに激しさを増していた。
教会の屋根や窓を叩く雨音は、さっきまでの静かな雰囲気とは違い、どこか重たく響いている。
「予報じゃ、夕方には止むって言ってたけど……」
美紅がスマホで天気予報を確認するが、雨雲レーダーには真っ赤な帯が広がっていた。
「これ、しばらく外出れねぇな」
朔が腕を組んで言う。
「えー! せっかくの休みなのに!」
結花が不満そうに声を上げる。
「まあまあ、こんな日もあるよ」
隼人は落ち着いた声で言い、テーブルの上にお茶を置いた。
「もう少ししたら、雨が弱まるかもしれないし、それまでここで過ごそう」
「それもそうかぁ……」
結花はソファに寝転がる。
「でも、こうやってみんなで雨の日に教会にいるのって、なんかちょっと落ち着くね」
「……まあ、そうだな」
朔はソファに深く腰を下ろしながら、ぼんやりと窓の外を見た。
雨粒が窓を伝い、外の景色を少し歪ませている。
こんなふうに5人で過ごすのは、なんだか不思議な感じがした。
② 美紅と幸次、静かな距離
「……北村さん、また本読んでるんですね」
ふと、美紅が幸次の隣に座る。
「……暇だからな」
「今日は何読んでるんですか?」
「……短編集」
「へぇ、面白いですか?」
「まあまあだな」
そう言いながらも、幸次は本を閉じた。
美紅が隣に座ると、不思議と集中できなくなる。
美紅は何かを言うでもなく、ただ静かに雨の音を聞いていた。
(……美恵子も、雨の日はこんなふうに静かだったっけな)
美紅の横顔を見ていると、記憶が重なる。
美恵子と過ごした、遠い昔の雨の日。
(似ている……)
雰囲気も、佇まいも。
だけど、違う人間だということもわかっている。
「……?」
美紅がふと幸次の視線に気づき、首をかしげた。
「北村さん?」
「……なんでもない」
幸次はゆっくりと目をそらし、本を開いた。
自分の中で生まれ始めている感情が何なのか、まだ整理がつかないまま。
③ 朔の気づかぬ嫉妬
「……」
朔は、そんな2人のやりとりを何気なく見ていた。
(北村と美紅……)
以前から、美紅が幸次に対して特別な信頼を寄せているのは感じていた。
でも、それが何なのかは、まだわからない。
(別に、何もない……はず)
そう思うのに、視線が自然と2人に向かってしまう自分がいる。
(……俺、なんでこんなに気にしてんだ?)
わからないまま、ゆっくりとコーヒーを口に運ぶ。
雨の音が、微かに心のざわつきを包み込んでいた。




