第15話 梅雨の始まり
(6月のある日/静かに降る雨の中、それぞれの時間)
① 雨の日の教会
「雨、やまないねぇ……」
結花がため息をつきながら、教会の窓の外を見つめる。
朝から降り続く雨は、しとしとと静かに屋根を叩いていた。
「本格的に梅雨入りだな」
朔がソファに座りながら言う。
「梅雨ってさ、なんか気分が沈むんだよねー」
「お前は雨でも元気なくなることないだろ」
「ひどっ!」
結花がむくれると、美紅がクスッと笑う。
「でも、ちょっとわかるかも。雨の日って、気持ちまで静かになるよね」
「美紅……。ねえ、隼人さんは?」
「うん? そうだね……雨の日は、いつもより教会が落ち着く感じがするよ」
隼人がゆっくりと答える。
「そういうもん?」
結花が不思議そうに首をかしげた。
「雨の音が響くから、なんとなく静けさが増すんだろうな」
幸次がぽつりと言った。
彼はいつものように黙って本を読んでいたが、ふと顔を上げて外の景色を見た。
(……この景色、懐かしい)
雨に濡れる窓ガラス。
どこかで感じたことのある湿った空気。
(……長崎で、こんな日があったな)
何十年も前、美恵子と一緒に雨宿りをした日のことが、ふと脳裏をよぎった。
(……美紅と美恵子は、やっぱり似てる)
ふと、美紅が幸次の隣に腰を下ろした。
「北村さん、何読んでるんですか?」
「……ただの小説」
「へぇ。タイトル、見てもいいですか?」
美紅が少し覗き込む。
その横顔を見て、幸次は一瞬、心臓の奥がざわつくのを感じた。
(……何を考えてるんだ、俺は)
目の前にいるのは、美恵子じゃない。
それはわかっているのに、無意識に心が引き寄せられる感覚があった。
「北村さん?」
「ああ……いや」
幸次はわずかに首を振り、目を本に戻した。
美紅はそれ以上何も言わず、ただ静かに隣に座っていた。
そのさりげない距離感が、逆に心を揺らした。




