表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/111

第13話 波の音に消える想い

(夜の旅館/朔が美紅と幸次の関係性を感じ取る)


① 旅館の夜、ふとした違和感


夕食を終え、5人はそれぞれ自由に過ごしていた。


「お腹いっぱいー!」


結花が満足げに伸びをする。


「ちょっと歩こうかな」


美紅がふとそう言うと、隼人が「少し外に出てみる?」と声をかけた。


「夜の海、綺麗そうですね」


「じゃあ、俺も行くわ」


朔もついていくことにする。


幸次は一瞬迷ったようだったが、美紅が「北村さんもどうですか?」と声をかけると、「……じゃあ」と立ち上がった。


旅館の外へ出ると、潮の香りがふわりと漂う。


海は暗く静かで、月明かりが波の表面を優しく照らしていた。


「うわぁ……すごい、綺麗」


美紅が感嘆の声を上げる。


結花は「夜の海ってなんかロマンチックだよね〜!」とはしゃいでいる。


(……こういう時でも、こいつは変わらねぇな)


朔は少し笑いながら、隣に立つ幸次へと視線を移す。


幸次は静かに海を見ていた。


何を考えているのかわからない。


(……この人は、何を思ってここにいるんだ?)


ぼんやりとそう考えていた。


② 朔が感じた“特別な距離”


「ちょっと散歩してくる」


ふと、美紅がそう言った。


「え、何それ? 私も行く!」


結花が言おうとしたが、隼人が「少し2人にしてあげたら?」と静かに言った。


「え、なんで?」


「……なんとなく」


「?」


結花は首をかしげるが、特に深くは考えないようだった。


朔もまた、「……なんとなく」と言われると、それ以上聞くことはしなかった。


ただ、少しだけ視線を上げて、美紅と幸次の後ろ姿を見送る。


(……なんだ? 俺、今何を考えてる?)


③ 2人を見つめる朔


離れた場所で、美紅と幸次が並んで歩いていた。


距離は近いわけではない。


でも——


(……妙に、自然だ)


美紅は普段、誰にでも気さくに接する。


それは朔もよく知っている。


だけど、幸次に対する態度は、どこか違う気がした。


(なんつーか……気を許してる、っていうか)


普段、幸次は誰とでも一定の距離を保っている。


なのに、美紅にはそれがないように見えた。


(……なんでだろうな)


理由がわからないまま、朔は静かに2人の姿を目で追った。


遠くで、美紅の笑う声が聞こえた。


それに、幸次が小さく頷いている。


——たったそれだけのやり取りなのに、なぜか胸の奥に、小さな引っかかりが生まれた。


(……俺は、何を気にしてるんだ?)


冷静に考えようとする。


でも、答えは出ない。


ただ、美紅と幸次の距離が、思っていたよりも近いものに見えた。


それだけだった。


④ 夜の海と、朔の心の揺れ


1人、波打ち際に立つ。


静かな海。


潮風が肌を撫でる。


(……なんか、変だ)


美紅のことを、特別に思っているのは自覚している。


でも、それを表に出すつもりはなかったし、今もそのつもりはない。


(けど……俺は、今なんでこんなに気にしてる?)


自問する。


——答えは、わかっている。


ただ、それを認めるのが少し面倒だった。


(美紅は、幸次に気を許してる)


(幸次も、美紅に対しては他の奴とは違う)


(……俺は、それが気に入らねぇのか?)


深く息を吐く。


気づかないふりをしていた感情が、じわじわと広がってくる。


「……ダメだな」


自分の感情を抑えるように、夜の海を見つめた。


遠くで、結花の笑い声が聞こえる。


——何事もなかったように、明日を迎えよう。


そう心の中で言い聞かせながら、朔は海を背にした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ