第12話 熱海の夕暮れ
(熱海観光&旅館/朔が幸次と美紅の関係に気づく)
① 初島観光と、朔の視線
フェリーで初島に到着すると、結花は「よーし! 探索だー!」と元気に駆け出した。
「少しは落ち着けよ」
朔が苦笑すると、美紅が静かに笑う。
「でも、結花が楽しそうでよかったね」
「まあな」
初島の小道を歩きながら、美紅が地図を見ていた。
「美紅、どこ行きたい?」
「うーん……」
悩む彼女の横顔を、朔は無意識に見つめていた。
「……美紅?」
「ん? あ、ごめん、なんか考えちゃって」
「何考えてた?」
「えーっと……なんでもない」
美紅ははぐらかしてしまう。
その仕草が、なんだか妙に気になった。
② 旅館でのひととき
夕方、旅館に到着すると、結花は「温泉入りたーい!」と真っ先に浴衣に着替え始めた。
「夕飯の時間決まってるから、時間までに戻るんだぞ」
隼人が注意すると、結花は「はいはーい!」と元気に返事をする。
美紅も「じゃあ、行こっか」と笑う。
浴衣姿の美紅を見て、朔は思わず目を奪われた。
(……やばい、普通に可愛い)
そんな自分の考えに気づき、そっと息を吐く。
(ダメだ。冷静になれ、俺)
朔は意識しないように努めながら、男チームと共に温泉へ向かった。
③ 夕食の席での違和感
夕食は豪華な海鮮料理が並び、結花は「すごーい!」と感激していた。
「刺身、新鮮ですね」
「うまいな」
朔も箸を進めながら、美紅を見る。
彼女は幸次の隣に座り、何か楽しそうに話していた。
(……なんだ?)
朔は、ふと違和感を覚えた。
幸次は基本的に寡黙で、人と親しく話すタイプではない。
それなのに、美紅とは自然に会話をしている。
——まるで、昔からよく知っているかのように。
「北村さんって、海の近くに住んでたんですよね?」
「……ああ。まあ、昔な」
「やっぱり、長崎の魚って東京と違います?」
「そりゃ違うな」
「へぇ……行ってみたいな、長崎」
(……なんか、近くねぇか?)
朔は、2人の距離感に少しモヤモヤした。
「美紅、刺身こっちにもあるぞ」
わざと話を振ると、美紅は「あ、ありがと」と朔の方を向いた。
けれど、どこか朔の違和感は消えなかった。
(美紅と幸次……なんかあるのか?)
そんな疑念が、朔の心に少しずつ芽生えていった。