第11話 熱海への道
(ゴールデンウィーク旅行/車内での朔の心の変化)
① 旅の始まり
「よーし! それじゃあ、熱海に出発しまーす!」
ゴールデンウィーク初日。
朝の爽やかな空気の中、朔の運転で5人は熱海へと向かっていた。
「まさか本当に行くことになるとはな……」
運転席で朔が呆れたように言う。
「だって! ゴールデンウィークだよ!? どこか行かなきゃもったいないじゃん!」
結花は後部座席で大はしゃぎ。
「思いつきで旅行を決めるの、結花らしいよね」
隼人が苦笑しながら隣で地図を確認する。
「でも、熱海いいよね。海もあるし、美味しいものもあるし」
美紅も落ち着いた声で言う。
「そうそう! 温泉もあるし!」
「温泉ってことは、やっぱ旅館だよねぇ〜!」
結花が楽しそうに言うと、幸次がぼそっと呟いた。
「……結局、行くの決めたの昨日だろ」
「いいじゃん! 楽しければ!」
「計画性ゼロだな」
「それがまた旅の醍醐味だよ!」
賑やかな会話の中、朔は運転に集中しながらも、ふとバックミラー越しに美紅を見た。
彼女は窓の外をぼんやり眺めている。
風に揺れる髪。
陽の光を浴びた横顔が、どこか儚げだった。
(……最近、こいつのことばっか考えてる気がする)
それが “恋” という感情だと、朔はもうとっくに気づいていた。
だけど、それを周りに悟らせるつもりはない。
(バレたら面倒だしな)
「朔、そろそろサービスエリア寄らない?」
美紅がふと声をかけた。
「ん? いいけど、なんか食うのか?」
「うん。SAのご飯って美味しいじゃん」
「だよな。ちょうど俺も腹減った」
「じゃあ決まり!」
そんな何気ない会話。
だけど、朔は美紅の言葉を聞いているだけで、心がざわつくのを感じた。
② サービスエリアでのひととき
サービスエリアに着くと、みんなはそれぞれ好きなものを選び始めた。
「やっぱり静岡といえばお茶だよね!」
結花は抹茶ソフトクリームを片手に嬉しそう。
「俺は、海鮮丼にするか」
隼人は落ち着いた声で言い、幸次は静かに「じゃあ、俺も」と続いた。
「美紅は?」
朔が自然に聞くと、美紅は少し考えて「じゃあ、コロッケにしようかな」と答える。
「なら、俺もそれにする」
「あ、じゃあ半分こする?」
「……ああ」
たったそれだけの会話なのに、朔は心臓の鼓動が妙に速くなるのを感じた。
美紅は、深く考えずに言ったのだろう。
でも、彼にとっては、些細なことでさえも意味を持ってしまう。
(……俺、やばいな)
周りに気づかれないように、ふっと息を吐く。
結花が楽しそうに隼人に話しかけているのを見ながら、朔は「俺もいつも通りでいなきゃな」と自分に言い聞かせた。
③ 熱海到着! 観光開始
昼過ぎ、ようやく熱海に到着。
「おおー! 海だー!」
結花が歓声を上げる。
「綺麗だね」
美紅も静かに言う。
「せっかくだし、観光するか?」
朔が言うと、結花がすぐに反応する。
「熱海といえば、やっぱり温泉と海鮮でしょ! それと……あ! 初島行ってみたい!」
「また急な思いつきだな」
「でも、初島って熱海からフェリーで行けるんだよね?」
「確かに、いいかもな」
「じゃあ、行ってみよう!」
結花の勢いに押され、5人はフェリーに乗ることに。
④ フェリーの上で
「気持ちいいねぇ!」
海風を浴びながら、結花がはしゃぐ。
朔は、船のデッキに立って遠くを眺める美紅に目を向けた。
「美紅、寒くねぇ?」
「ん? ちょっとだけ」
「ほれ」
朔は無言で自分の上着を差し出した。
美紅は驚いたように目を瞬かせたが、素直に受け取る。
「ありがとう」
「別に」
何でもないやりとり。
それなのに、心臓の鼓動が跳ねる。
(なんで、こんなことで……)
美紅は何も気づいていない。
結花や隼人も、幸次も。
だけど、朔の中では確実に何かが大きくなっていた。
美紅が遠くを見つめる横顔を、朔はこっそりと見つめた。
(俺……こいつのこと、どんどん好きになってる)
でも、その気持ちを表に出すつもりはない。
「おーい! そろそろ初島つくよ!」
結花の声で、朔は我に返る。
「おーけー」
何事もなかったように振る舞いながら、彼は船を降りる準備をした。
——こうして、彼の気持ちは静かに、でも確実に強くなっていく。




