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ゴリラかオオワシにはなってほしいとおもいます

 お猿な少年、サイラス・モンキナと、ひよこな少年ジェームズ・バードが、シーラの婚約者候補となってからというもの早数週間。

 有力な婚約候補である二人は、度々ランツ伯爵家へとやって来るようになった。


 シーラがどちらのことも 「(弱いから)婚約者相手としては見れない」とハッキリキッパリ言ったため、父アティカスも渋々お断りを相手側に伝えたのだが、まだ幼いのだから様子を見てゆっくり先の事は決めればいいと、何だか曖昧な返事を返されてしまった。


 どうやら問題児サイラスも、そして泣き虫なジェームズも、シーラと出会ってからというもの性格が少しずつだが改善しているらしく、シーラと婚約しなくともせめて友人として付き合って貰いたいと、モンキナ家もバード家もそう思っているようだった。


 うちのシーラはベビーシッターでもナニーでもないのだが……


 父アティカスにはそんな思いがない訳でもないのだが、なんせ辛辣令嬢とそんな陰口を囁かれている愛娘シーラ。本人が望まなくとも婚約者候補をみすみす逃す手はない。

 それに将来的にシーラに新しく婚約を申し込んでくる相手がいるか分からないのが現状。なので父アティカスもシーラの気持ちを知ってはいても、相手の思惑に乗ることにしたのだ。



 そんな親の目論見などまったく知らないシーラ達は、少しずつだが仲が改善され、友人と呼べる間柄にはなっていた。


「サイラス、がんばってですわ!」

「が、がんばれ、サイラスー」


 シーラとジェームスの応援を受けながらサイラスはランツ家の中庭の木に登っていた。

 それはシーラの 『婚約者候補英雄度進化計画』 によって、お猿なサイラスをゴリラへと進化させるため、シーラは遊びという名のもとサイラスに修行を課していたのだ。


 サイラスがランツ家へ通うようになって、友人としてサイラスと深く話すようになったシーラ。

 その中でサイラスが五歳下の弟にコンプレックスを持っている事を知ったのだ。


 幼い弟はいつも両親や友人、使用人たちに可愛がられていて、いたずらばかりするサイラスは怒られてばかりいる。それにサイラスは余り両親に似ていないのに、弟は両親の見た目を丁度良く引き継いでいる。 

 だから無意識に悪いことをしてしまい自分に注目して欲しいと思ってしまうのだが、それは悪手、英雄伝を深く好むシーラにはその事がよく分かっていた。

 ジェームスに意地悪したのも 『少しだけ弟に似ている』 そんな理由から、今では打ち解けて友人となっているが、最初は悪態をついてはジェームスを泣かせていたぐらいだ。


「サイラス、いいですか、敵(弟)の陣地(得意な事)で戦っても負けるだけですわ、戦うのならば自分の優位になる事(場所)で戦わなければなりません!」


 意味が余り分かっていないようなサイラスだったが、シーラの熱のこもった言葉に思わず頷いてしまう。

 可愛らしさで勝負する五歳下の弟に対し、年上のサイラスが勝負を挑んでも敵うはずがない。

 けれど体を動かすことが好きなサイラスだったならば、今から修行を積めば将来必ず別の意味で勝てる(はず)!シーラにはそんな勝手な思惑があったのだった。


 それからというもの、サイラスはランツ家に来ると、シーラ監修の元、木登りや縄を飛び越えたり、走り回ったりと、シーラ師匠からの厳しい特訓が課せられていた。


「サイラスにはしょうらいてきにゴリラ辺りをめざしてほしいですわ!」


 そんなシーラの勝手な考えなど知らないサイラス。

 屋敷では両親に頼みこみ剣の訓練を始めたそうで、すっかりシーラの思惑にハマっていた。


 そして真面目になり出したサイラスを両親は褒めるようになり、弟も兄サイラスの剣の腕を褒め「あにうえカッコイイ」とそんな称賛の声も掛けてくる様になり、尚更シーラ師匠の特訓にハマっている、そんな状態だ。


 ヘクトール・グリズリー様のように智も武も兼ね備えた男性などなかなかにいないもの、せめてサイラスには武の部分だけでも立派になって貰わなければと、婚約者候補サイラスには武を求めるシーラだった。


「めざせゴリラですわ!」






 そしてもう一人の婚約者候補、ひよこなジェームズは


「うわーん、またシーラに負けたー」

「オーホッホッホッ、ジェームス、それはしかたがないことですわ。なぜならわたくしは幼少のころより碁に覚えがありますもの」

「ぐすん、でも僕だって勉強してるのにー」

「わたくしに勝ちたければもっと勉強がひつようですわね、ジェームス。さあ、次はチェスですわ。チェスの方がジェームスはとくいでしょう?」

「うん、チェスならシーラにだって負けないからねー」


 泣き虫なジェームスは自分に自信が無かった。

 兄は優秀で元気一杯だけどジェームスは幼い頃から体が弱く、引っ込み思案であまり自分の意見を言わない子。両親はしっかり者で打てば響くような兄ばかり褒め、ジェームスのことはあまり構わなかった。そんな両親にジェームスは見捨てられたとそんな気持ちになっていた。

 その事もあり使用人たちからも軽んじられているように感じたジェームスは、尚更内気で自分の意見を言えないそんな男の子に育ってしまった。


 けれどジェームスは本が好きで、学ぶことも嫌いではない。

 むしろジッとして色々と考える事が好きな男の子。そんなジェームスには英雄の智の部分を学ばせるべき。知将シーラはそう考えたのだ。


「ジェームス、相手にみとめてもらいたいのならば結果をのこすべきですわ」


 シーラはジェームスにそう伝え、最近色々なゲームを勉強させている。

 碁は熊将軍ヘクトール・グリズリーの趣味だったので、シーラは有無も言わさずジェームスに覚えさせた。


 そしてチェスやリバーシ、カードゲームなど、色々なゲームを覚えさせ、今現在ジェームスの頭を鍛えている最中だ。強い武将にならなくても、素晴らしい軍師になれば英雄伝には載ることが出来る。ジェームスには是非そこをめざして欲しいとシーラは考えた。


「ひよこからオオワシあたりには成長してほしいところですものね」


 そして先日参加した子供チェス大会では年少の部で優勝をもぎ取ったジェームス。

 サイラスも友人の優勝を褒め称え、そして両親もジェームスを褒めた。

 教師役であるシーラも婚約者候補の活躍に鼻高々だった。


「ウフフ、オオワシも夢じゃないですわね!」


 そんなシーラの考えなどしらないジェームスは、自身の快挙に驚きながらも、やれば出来ると自信を持ちつつあり、両親との仲も少しずつ改善しはじめたのだった。




「さあ、二人とも、おやつを食べたらまた遊び(修行し)ますわよ」

「おう!」

「うん」


 すっかり仲良くなった婚約者候補の三人。

 ただし彼らの活動(修行)は親たちの預かり知らぬところであった。

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