第7話 「『あれ』って血と同じ。ううん、もしかしたら、それ以上の『マナ』があるって言うよね」
「な、なあ、アニキ。今日は強い『怪物』と戦ったから、たくさん『マナ』の補充がいると思うんだ」
「え? ああ、血を飲む?」
「また! それは嫌って言ったじゃん」
「え? 駄目なの」
弱っている僕を傷つけないための配慮だった気がするけど、妹が定めた禁止事項になってしまったみたいな雰囲気だった。
「でも、じゃあどうすれば……」
「吸わせてもらう。はい、戻って。戻って」
背中を両手でつつかれて、洞窟の中へと押し込まれた。なんとなく舌舐めずりしているような声に聞こえてしまって不安になる。
「まあ、とりあえず少し休もう。アニキ」
妹は自分からベッドに飛び込んで横になるとぽんぽんと、ベッドを手のひらで叩いて僕を招き寄せていた。子供かペットにするみたいに僕を隣で寝かしつけようとする妹だった。
僕は怪訝な顔をしながら、ゆっくりと歩いてベッドに腰かけた。
「うわっ」
腰掛けた次の瞬間には、腰にタックルされるかのようにベッドに押し倒されていた。背中に柔らかい感触が押し付けられる。不本意だけど、それにはかなり慣れてきてしまっていた。でも、昨日よりもきつく抱きしめられて苦しいくらいだった。
何をされるのだろうかと怯えながら、身を固くしていたけれど、しばらくたっても何もなかった。
おそるおそる後ろを振り返ると、僕に抱きついたまま美咲は眠りについてしまっていた。
「まあ、疲れたんだろうけれど……」
僕の背中から妹をゆっくりと剥がして仰向けに寝かせてあげた。毛布をかけてあげる時にすぴーと可愛らしい寝息を立てている妹の寝顔を見て、僕も思わず笑っていた。
僕自身はそんなに疲れていないと思っていたけれど、やはり今日は驚きの連続で身も心も疲れていたらしい。ベッドでちょっと横になるといつの間にかぐっすり眠っていた。気がつけば洞窟の中は夕日が照らしていて綺麗な黒とオレンジの岩肌が目に入ってきた。
(もう夕方か……)
しかし、そんな綺麗な視界とは別に僕は息苦しい重さを感じていた。
「ちょ、ちょっと重い」
もちろん何が起きているかは察していた。妹が僕の腰の上に馬乗りになっているのだ。
「あ、起きた? ア・ニ・キ」
「ちょ、ちょっと待て。 な、何をする気だ」
「『マナ』の補充をいっぱいしたいって、言ったでしょ」
「だからって、これは何だ?」
完全に僕の両手が頭の上で抑えつけられていた。反動をつけて逃げようとしたけれど、両手は何もないのにもかかわらずピクリとも動かず妹の下で腰が揺れただけだった。
「だから、こんなことで『能力』を使うな!」
僕の声は洞窟に虚しく響くだけだった。妹は全く動じることもなく、怪しい目で僕を見下ろしていた。一回眠りについた妹の姿を見て油断してしまったと反省した。しかし、よく考えれば油断しなかったとしても何ができただろうかと改めて考える。
(この島に連れ去られた時点で、妹には逆らえない)
殺されることはない。それは妹も力を失うことにもなる。でも、そんな次元の話ではないのだ。妹が僕のことを本当に大事にしているから、この島に逃げ出したことはよく分かっていた。
(これはヴァンピレスの副作用なのだ)
目の前に迫る妹の目を見ながら、そう思うことにした。
唇を重ねて舌を吸われると、すぐに今度は首筋を舐められた。
「ちょ、ちょっとやめ」
まだ、悪ふざけの範囲なのだと言ってくれることを期待していた。
でも、明らかに目が怖かった。
酔っぱらいの痴漢に襲われる女の子って、こんな気持ちなのかもしれないと一瞬思ったけれど、それは女の子と比べて大げさだと反省した。僕が酷く傷つくわけではないのだから。
とは、いえ妹の目は普通ではなかった。
獲物を狙う肉食獣のような眼差しで僕の体を嘗め回していた。もしかして、このまま吸血鬼みたいに首筋に噛みつかれて、血を本当に吸われてしまうのではないかという心配までした。
少し妹の体が横にずれて安心していると、首筋を舐めながら指が僕のお腹から更に下へと伸びてきていた。
「なーに、妹に触られて固くなっているのかな。えっちだなあ。アニキは」
「触られれば、大きくなるものなの!」
僕は声を荒げたけれど、妹は全く動じることなく顔の横から微笑を浮かべて覗き込んでいた。
「『あれ』って血と同じ。ううん、もしかしたら、それ以上の『マナ』があるって言うよね」
「『あれ』って……何のことだ」
「とぼけちゃって、仕方ないなあ。汚いから嫌なんだけど、我慢してあげる。飲ませてね」
そう言いながら、僕のズボンのファスナーに手をかける。
「そ、それか。ま、待て。だ、駄目だからそれは」
「気持ちよくしてあげるから」
「そ、それだけは駄目だから、お兄ちゃん、お前のこと嫌いになるからな」
「え、なんで? アニキのためにしてあげているのに嫌いになるの?」
我ながら錯乱した抵抗だったけれど、妹の動きはピタリと止まって僕を圧迫していた力は消えていった。両手が自由に動かすことを確認すると、僕はやっと上半身を起こすことができた。
目の前にあるのは、本気で悲しそうな目をした妹の顔だった。
「あ、うん。いや、そのね……」
さすがに何か悪いことをしたような気になって、なだめるような感じになってしまう。
「嫌いになったりはしないけれど、なんか……ちょ、ちょっといかがわしいだろう」
「えー。いいじゃんか。口でするくらい」
その言葉を聞くと、元気になって妹は再びのしかかってきた。
「真帆さんには、してもらったくせに」
「し、してもらってません」
僕は真っ赤になって否定した。否定しながらも。ちょっとだけいかがしいことをしたことを頭の中では思い出していた。
「先週、基地が攻められた時、真帆さんと二人で部屋にこもって何してたのさ」
「な、何もしてないって」
何故、浮気を追求されているみたいな態度になってしまうのか自分でも分からないまま目を逸していた。
「えー。じゃあ、真帆さんは、なんであんなにいきなり強くなっていたの?」
「いや、まあ、お悩みを解決してあげて元気になったというか……」
「ふーん」
微塵も信じていなさそうな冷たい視線で僕を見下ろしていた。
「ま、どうでもいいか」
妹がそう吐き捨てるようにつぶやいて長くはない髪をかきあげた時には、いつもの淡白な妹に戻ってくれたのだと思った。
「約束だし、『マナ』は補充させてもらうからね」
と言って、片方の腕で僕の腰に手を回して支えつつ、もう片方の腕は僕のズボンの股間に伸びて、ファスナーをおろすと手を侵入させてきた。
「ちょ、ちょっと」
「血とは違って、傷つけないし。朝、こっそり草むらに出しちゃうくらいなら、私が飲んだ方がいいと思わない?」
「えっ、いや、してないから。今朝、そんなことしてないから」
「今朝してなくても、アニキの体液は、今、貴重なの。世界を救う体液なんだから」
「何を気持ち悪いこと言って……うっ」
もう、今回は指先さえ動かすことができなかった。でも、ズボンのファスナーから引きずり出された僕自身は、妹の舌先が触れた瞬間に大きく反り立ってしまった。
「あっ」
そのまま、妹の口の中に含まれてしまった。
つい、美咲の舌が温かいなと思ってしまってからは、すぐに爆発してしまいそうになってしまった。
それからは、何も考えないように、何も感じないように、しばらく我慢していた。
だけど、たどたどしく舌が触れたり離れたりするだけだったのがめんどくさくなったのか、根本まで咥えられて、そのまま頭を前後に動かして、刺激を強くすると僕はもう快楽に身を任せたくなってしまった。
「うっ、美咲。だめ」
舌が僕の先端を舐め上げた瞬間に、僕は妹の口の中で果ててしまっていた。
久々に果ててしまって、僕はスッキリすると寝てしまっていたらしい。
目覚めたときには夕日が洞窟の中に差し込んでいた。夜寝られなくなってしまいそうだと思いながら、横を見ると元気に寝息を立てて寝ている妹の姿があった。
(寝ている姿は大人しくて可愛いのにな……)
数年前から同じようなことを何度も思っている気がしたけれど、特にヴァンピレスは戦った後は興奮状態になってしまい扱いが難しい気がした。
(それにしても、ちょっと美咲は不安定かなぁ)
興奮が収まりさえすれば、元の生意気だけれど可愛い妹だった。ちょっと心配になりながら
でも、不意にさっきのことを思い出してしまい、気持ち悪いくらいに恥ずかしくなって枕を頭に被って妹の反対側を向いて寝ることにした。
ひらりと跳ね上がった紙が目の前に落ちてきた。そう言えば、昨日、枕の下に真帆さんからの手紙を隠していたのだと思い出した。ちらりと後ろを振り返り、妹が目を覚ましていないことを確認すると僕は真帆さんの手紙を広げて二枚目をめくった。
『気がついていると思いますが、最近の『怪物』は最初の『怪物』とは別のものです』
一枚目とはかなり違ういきなり核心に触れた内容に、僕は軽く衝撃を受けていた。自分でも推測はしていた内容ではあるけれど、読み進めるのは少し怖かった。
『最初の怪物は、きっと何かの生物実験で生まれたものでしょう。それはそれで、もちろん大変なのですが……普通の武器でも何とかなるものでした。
でも、きっと生物実験の失敗をごまかしたかったのでしょう。もしくは成功したと思われるケースで、ごまかしたかったのだという気がします。
私たちヴァンピレスは、最初の怪物にとても有効でした。街の中で武器を使うことなくあの怪物たちを抑えることができる。(まあ、私はいっぱい街を壊しちゃいましたけどね)だから、仕事をしているアピールも兼ねて私たちにいっぱい戦わせていたのだと思います。
でも成功例と思っていた私たちヴァンピレスには、もっと危険な副作用があったのだと思います。
気がついていましたか? 最近の怪物はもう普通の武器では倒せないんです』
「うーん」
突然、美咲の手が僕の肩に触れたので、僕はびっくりして叫ぶところだった。慌てて、手紙をまた枕の下に隠すと、ゆっくりと後ろを振り向いた。予想通り、寝返りを打っただけで可愛い寝息をたてていた。
(そんなに怯えることはない。美咲にも手紙を一緒に見てもらった方がいいんじゃないのか?)
そう思って、もう一度、枕の下に手を伸ばそうとしたところで、今度は美咲が寝ぼけながらがっつりと抱きついてきた。
(ひえっ)
つい、枕の下に伸ばした手を引っ込めてしまった。寝ぼけて抱きついただけだということを、再び確かめたところでもう一度、手を伸ばす気にもなれずに僕も大人しく眠りに落ちることにした。
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