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誕生日の次の日は。

作者: まねきねこ

少し長いのを書いてみました。

まだまだ修行する部分が多いと思いますが。

温かい目で見て頂ければ幸いです。

カチカチと時計の音だけが部屋に響いている。

私はテーブルに用意された冷めていく料理を、ただ見つめていた。


長い間椅子の上に体育座り、なんのも情けないことをしていたと思う。

ただでさえ薄暗い部屋で寂しい気持ちになるというのに。


時計の針は23:46を指していて、もう私の誕生日は終わりそうだった。

あんなに楽しみにしていたのに、今はもう・・・・・


泣きそうになる自分に余計寂しさがこみ上げてくる。


ふと視線をテーブルの隅にやると、そこには二人で撮った写真があって

静かにそれを伏せるくらいしか今の私にはできない。


あのころは楽しかった。


なんて先月のはなしだ。

手をつないで、路地に入ってキスをして、愛してるよなんて呟いたり、

人目なんか気にならない、そんな恋をしていた。

今思うと恥ずかしくなる、それを見たらどれだけ苛立つか。



カチカチ。

23:50。


時間は止まってくれないもので、カーテンを閉めた外の世界では

きっと、多くの人が就寝時間へと変更しているんだろうなぁ。

そう思ったら眠くなってきた。




「ごめん、今日は仕事で遅くなりそうなんだ。」


その言葉を聞いた直後に女性と二人で歩く姿を見てしまった。


彼にもらったキーホルダーを付けた携帯は、ツーツーと乾いた音を鳴らして

ありがとうと書かれたメッセージカードを入れたコンビニの袋は

軽い風にも振り回されていた。


家にはもう料理ができているの。

少し高級なワインだって用意したの。

急いでカード買いに来た、私はここにいるのよ。

ねぇ、こっち見てよ。




piriririri―――――――――!


初期のままの着信が私をまた今に戻した。

「あ、」


彼からだ。


でも・・・・・。

でも、きっと振られてしまうんだ。

出たら振られてしまうんだ。

私の誕生日よりも彼女を優先するのだから。


突然涙があふれ出してきて、今まで我慢してきた時間分全部出てきたんじゃないかってくらい

ひどい量で・・・


「・・・・っう、うう゛っ」


いい大人が、なんて泣き方なんだろう。

化粧をぐちゃぐちゃにしながら、涙だか鼻水だか分からない液体を拭き取る。

涙がきれいなんて誰が決めたの?

汚い涙だってあるんだから!

誰に向けて放った言葉か、それは空に舞うだけだ。



すでに昨日となった私の誕生日。

鳴り止んだ電話。

相手のいないメッセージカード。

冷え切った料理。


部屋丸ごとが悲しみの塊になったかのように、冷たい空気がただ体を包んで

世界から孤立した今の時間が、眠くなっていた私を飲み込んだ。



 □  ■  □  ■  □  ■



「・・・ちゃん、なおちゃん?」

懐かしい声が聞こえた。



なんでここにいるの?

あなたの場所は・・・・・・




「なおちゃん!ごめん!本当にごめん!」


「・・・・・・・。」


「ごめん!同僚が離してくんなくて・・・」


「・・・・・・・。」


まだしっかり眠気から覚めていないからなのか、頭が全く起動しない

彼が何故部屋にいるのか、何故私に話しかけているのか、

全く理解できない。



「なおちゃん?」


本当に心配そうな目で見てくる彼が、私をまた混乱させる。


「・・・・でしょ。」


「え?」


「どうせ、私なんかうざい女なんでしょ。」


「は?」


「だって、見たもの。女の人と歩いてるの見たもの。電話したとき誰と居たの?何してたの?仕事なんかしていなかったじゃない!どうせ、私なんか捨てちゃうんでしょ!?」



もう止められなかった。

寝て止まった涙が、さっきので尽きてしまったと思っていた涙は、

滝のように流れ出し洪水を引き起こしかねなかった。


わぁん、と、子供みたいに泣く私にハンカチを押し当て彼は私を抱きしめた。




 

□  ■  □  ■  □  ■





彼の同僚というのは先ほど居た女性の彼氏だった。

どうもけんかをしていたようで、彼女をあるお店に連れてきてくれというお願いをされたのだという。

しかし彼女とは面識が無く、ナンパみたいに誘えと言われたらしいのだ。

もちろん彼は断った。彼女の誕生日だから無理だと。


「でもなんで承諾したのよ。」


「う・・・・それは・・・」


同僚には借りがあったのだという。

そこで彼女を誘ってみると、けんかしたばかりだったからか彼女は遊びたがった。

しかしナンパのように誘ったから断れない。

ボーリングやカラオケなどさんざ振り回されたあげく、お店の予約時間が過ぎてしまった。

焦った同僚が突然押しかけとんでもないことになっていたらしい。


「仕事なんて言ってごめん。上手く説明できる自信がなかったんだ。」


「でも借りってなによ。まさか悪いことでもしてるんじゃないでしょうね!」


「違うよ!な、なおちゃん。」


「な、に?」

急に改まった口調になる彼に少し戸惑った私は抱きしめられていた体を少し離した。

微かに動く彼の目に、また少し不安になる。


「ねぇ?」





「なおちゃん。」


「なによ。」




「これ、受け取って?」


「へ?」


「借りっていうのは、これ、あいつデザイナーも兼ねてるからさ。無理に時間さいて作ってもらった。」


手渡されたそれは、今までの寂しさを無くしてしまうほどのほどで。

馬鹿みたいに綺麗で。

また洪水を呼び寄せた。






「結婚してください。なおちゃん。」



「はい!」



温め直したした料理が並ぶテーブルには、二人の写真と、少し高級なワインと


ありがとうと書かれた、メッセージカード。

読んでいただきありがとうございました!

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